2020-02-01から1ヶ月間の記事一覧
「現代俳句」の四月号のティータイム に私の小文が載ると伝えるハガキと第3回尾崎放哉賞で入賞との知らせが郵送された日、仙田洋子『はばたき』角川書店を読む。〈さびしさを知り初めし子も手毬つく/仙田洋子〉人がさびしさを知らるのはいつなのだろう〈手…
ガスコンロがひとつ息絶えチェーンが硬く張りすぎた日、小津夜景『フラワーズ・カンフー』ふらんす堂を読む。〈スプーンの硬さ泉にかほがあり/小津夜景〉のかほは飯島晴子の顔だろう、〈泉の底に一本の匙夏了る/飯島晴子〉。〈てのひらを太鼓にかざす鳥の…
浜松市中区菅原町はJR東海道本線高架北側に堀留ポッポ道という緑道がある。国鉄浜松工場の工場線跡地を整備した緑道で、ケ91タンク機関車が展示されているらしい。そこに「芭蕉翁奥之細道行脚より三百年記念」と題された脇起の歌仙碑が建つ。おくのほそ…
〈茘枝手に人造少女の目に原野/中嶋憲武〉(『祝日たちのために』港の人)の基底部は「人造少女の目に原野」。雑草の生えるまま生命の奔放たる原野を眺めるのは、人の手により計画的に作られた少女の眼球。その基底部への干渉部は「茘枝手に」、茘枝はここ…
ガスコンロが点かずリアタイヤが斜めな日、田島健一『ただならぬぽ』ふらんす堂を読む。〈蛇衣を脱ぐ心臓は持ってゆく/田島健一〉脱がれる蛇衣のなかで何が行われているかを人は知らないがゆえに、「心臓を持ってゆく」は斬新さと適切さを備えている。〈帆…
西部清掃工場を見学した日、塩野谷仁『夢祝』邑書林を読む。〈噴水のむこうの夜を疑わず/塩野谷仁〉噴水のこちらの夜と噴水を通して向こう側にある夜とが異なるかもしれない、なんて思わせる夜の噴水の魔力。疑わずとは疑念ありということ。〈短夜のはるか…
〈山里は万歳遅し梅の花/芭蕉〉について、 俳句の興味の中心を占めるのは、強力な文体特徴で読み手を引きつけながら、それだけでは全体の意義への方向づけをもたない(あるいはその手がかりがあいまいな)「ひとへ」の部分、行きっぱなしの語句である。これ…
第3回浜松私の詩コンクールで浜松市長賞をいただけるとハガキで知らされた日、藤永貴之『椎拾ふ』ふらんす堂を読む。〈一滴を余すことなく瀧凍てにけり/藤永貴之〉この全と一の対比へのこだわりは〈瀧水の全部が粒に見ゆるとき/藤永貴之〉はもちろん〈若…
狭義の単調減少ならば単射なので逆関数が存在する日、中嶋憲武『祝日たちのために』港の人を読む。〈いなびかり群馬練馬をすみれいろ/中嶋憲武〉M音の暴力が脳裏に稲光のように菫色の傷として残る。〈品川の底冷粗品知る暮らし/中嶋憲武〉サ行に擦れゆく…
この以太以外を開設して二年経つ日、中村安伸『虎の夜食』邑書林を読む。〈百色の絵具を混ぜて春の泥/中村安伸〉春の泥はこれから咲くだろう、芽吹くだろう様々な色をすでに百色含んでいる濁色。〈自転車の籠の中なる雪だるま/中村安伸〉「なる」、この勢…
新型コロナウィルス感染症が流行しているため翌日の名古屋出張が中止になったと知らされた日、鴇田智哉『凧と円柱』ふらんす堂を読む。〈あぢさゐへ通じる鼻のやうな道/鴇田智哉〉鼻毛の濡れる鼻腔のように、雨上がりで湿った道だろう。〈咳をするたびに金…
学習課題4 ベンヤミン、バフチン、アウエルバッハ、バルト、三島由紀夫のいずれかの小説論を読んで、われわれが小説を読むうえで参考になる点を考えてみよう。 作者を殺せば小説の楽園へ至る。そこは小説の父たる作者が支配する意味の家父長制を破壊したあ…
〈ラムネ瓶太し九州の崖赤し/西東三鬼〉について中島斌雄は以下のように書いている。 第一句では、眼前のラムネ瓶、赤い崖が、作者により思うままに拡大されている。私の脳裡には、大きな九州地図が浮かぶ。その真ん中に一大ラムネ瓶が武骨な重さで突立ち、…
静岡県のふじのくに芸術祭2019の詩部門で拙作「あすめざめるきみへ」が入選したので東静岡のグランシップへ県民文芸と賞状を取りに行った春雨の日、『柿本多映俳句集成』の「白體」部分を読む。〈海市より戻る途中の舟に遭ふ/柿本多映〉何が海市帰りの…
学習課題3 日本語の俳句、短歌、近現代詩を一つ選び、自分の得意な言語に翻訳し、翻訳のプロセスにおいて何が起こっているか記述しなさい。 俳句〈わが夏帽どこまで転べども故郷/寺山修司〉をスペイン語に訳す。 mi sombrero de verano rueda para siempre…
点温膏派だった私がロイヒつぼ膏を買ってきたら貼温膏派の妻もロイヒつぼ膏を買ってきた日、「花石」部分を読む。〈朴の花指のうごくはおそろしき/柿本多映〉朴の花の性器感と指の動きの奇異な対比、繁殖力がありそうな「おそろしき」〈なまかはきならむ夜…
学習課題2 萩原朔太郎の詩篇を一つ選び、それが「詩」として成立している根拠を示しながら、1000字程度で丁寧に分析しなさい。 萩原朔太郎の「殺人事件」を読む。探偵と探偵のこひびとであり殺された女と曲者の三人の登場人物が出てくる推理小説とも読める…
太さが一歳児の胴回りくらいあり、大人の背丈ほどの長さのある鰻を三匹、大きな睡蓮鉢に飼う夢を見た日、楠誓英『禽眼圖』書肆侃侃房を読む。〈自転車が倒れ後輪は回るまはるさうして静まるまでを見てゐき/楠誓英〉自転車を起こそうとしない、ただ車輪が止…
メガドンキの遊び場で一歳半の吾子から玩具をことごとく奪い玩具を専有していた四歳くらいの男の子。数分後に彼が迷子としてアナウンスされていた日、服部真里子『遠くの敵や硝子を』書肆侃侃房を読む。〈梔子をひと夏かけて腐らせる冷えた脂を月光という/…
浜松市総合産業展示館で開催された第十二回十湖賞俳句大会に、東区長賞受賞者として参加しました。
西の方言というよりファンタジー世界の長生きする小人の話し方で吉岡太朗『世界樹の素描』書肆侃侃房を読む。〈葉が紅こうなる話などして君は会いたさをまたほのめかしてる/吉岡太朗〉紅葉は恋愛感情の比喩として楽しい。〈カーテンがふくれて夜の王国の国…
学習課題2「詩の批評を通して、それまで見えなかった風景が見えてくることがある。詩のことばを経ることで、世界への新たな眼差しが獲得される可能性について、自身の経験にもとづいて、800字程度で述べなさい。」 金子兜太の俳句に〈暗黒や関東平野に火事…
学習課題1「一篇の詩を読むことと、一枚の絵画をみることでは、どのような体験の質の違いがあると思うか。800字程度で論じなさい」 一篇の詩を読むのと一枚の絵画をみるとき、詩は徐々に詩であることに気付くのに対し絵画は直感的に絵画であると気付くとい…
天竜川河口付近、太平洋を前に、強い北風で子が泣く。そんななか『福島泰樹全歌集』の「バリケード・一九六六年二月」部分を読む。〈一隊をみおろす 夜の構内に三〇〇〇の髪戦ぎてやまぬ/福島泰樹〉戦闘前夜の緊張、〈検挙されなかったことを不覚とし十指も…
卸本町でアリィの冬と夏「内と外のリフレクション」を観て、俳句と工芸の融合について考えた日、岡田一実『記憶における沼とその他の在処』青磁社を読む。〈闇鍋の闇を外せぬぬめりやう/岡田一実〉闇鍋の闇は趣向ではなく必要、だった。〈碁石ごと運ぶ碁盤…
俳句の解釈は夢日記と似ている。覚えていられる夢は文字情報にして二十文字に満たないだろう。夢景を文字に置き換えてそれに加えて夢日記とする、その工程は俳句の解釈と類似している。「蝶日」部分を読む。〈朽ち舟の繫がれてゐる桃畠/柿本多映〉熟れ桃の…
湯谷温泉、アマゴの塩焼がおいしい梅の宿で板敷川こと宇連川を見下ろしながら眞鍋呉夫『雪女』沖積舎を読む。〈花冷のグラスの脚の細さかな/眞鍋呉夫〉花見で芳醇のカクテル、脚の細さは花冷の心もとなさ。〈抗鬱のカプセル溶けぬ月夜かな/眞鍋呉夫〉夜と…
東三河で鴇田智哉『こゑふたつ』木の山文庫を読む。〈朽ちてゆく舟あり合歓の花が咲き/鴇田智哉〉眠りと朽ちの淡い共鳴、伊勢の小漁港であり〈いくつもの船がこはれて春をはる/今井杏太郎〉なのだろう。〈たんぽぽを摘んで頭がかるくなり/鴇田智哉〉摘ん…
新城市へ出かける日、出口善子『娑羅』角川書店を読む。〈皹の手が犯人を追いページ繰る/出口善子〉犯人を知りたくてページを繰る。冬は紙で手を切りやすいし、手仕事の合間に読んでいるのかもしれない。〈純白の四葩に時間重たかり/出口善子〉「時間重た…
第十二回十湖賞俳句大会の結果が出た。小学生の部の十湖賞受賞句〈恐竜博士対虫博士休暇明/室内和輝〉に注目、夏休の楽しさをそのまま学校に持ちこんだ休暇明、友人と再会した際の会話の高揚が「対」に表れている。十湖大賞は高校生の部の十湖賞から採られ…