以太以外

国は夜ずっと流れているプール 以太

2019-12-01から1ヶ月間の記事一覧

生駒大祐『水界園丁』港の人

榛の木花粉症だと判明した日、生駒大祐『水界園丁』港の人を読む。〈鯉抜けし手ざはり残る落花かな/生駒大祐〉鯉の感触の残る手と落花との共鳴、あたたかい喪失感。〈プールサイドの足首の鍵の鳴る/生駒大祐〉その響きはきっと明るい。〈夜によく似て育つ…

藪内亮輔『海蛇と珊瑚』角川書店

「現代俳句」の来年二月号のティータイムに私の小文が載るとハガキが届いた日、藪内亮輔『海蛇と珊瑚』角川書店を読む。〈話しはじめが静かなひととゐたりけりあさがほの裏のあはきあをいろ/藪内亮輔〉裏は「り」とルビ。花に喩えられる人は幸いだ。〈雨と…

九鬼あきゑ『海へ』角川文化振興財団

自由律俳句部門で浜松市民文芸賞をいただいた表彰式でその死を知った九鬼あきゑ『海へ』角川文化振興財団を読む。舞阪図書館で借りたので〈旗千本はためく元日の港/九鬼あきゑ〉や〈一湾に舟犇めける淑気かな/九鬼あきゑ〉を舞阪港の景かと思う。〈永き日…

長嶋有『春のお辞儀』書肆侃侃房

バイクのリアタイヤがパンクした日、長嶋有の新装版『春のお辞儀』書肆侃侃房を読む。〈はるのやみ「むかしこのへんは海でした」/長嶋有〉闇と海が質料的に合う、〈雲の峰中古車売場の旗千本/長嶋有〉現代あるいは資本主義の戦場、〈橋で逢う力士と力士秋…

萩原慎一郎『滑走路』角川書店

左足小指の爪が剥がれた日、萩原慎一郎『滑走路』角川書店を読む。表現が直截である。その屈折の無さに驚く。だからこそ歌作場面の歌もあるのだろう。〈青空の下でミネラルウォーターの箱をひたすら積み上げている/萩原慎一郎〉徒労に従事という清々しさ、…

秋尾敏『ふりみだす』本阿弥書店

第十二回十湖賞俳句大会の東区長賞をもらえるという通知が郵送された日に、秋尾敏『ふりみだす』本阿弥書店を送ってもらった。〈黒潮は遅れ気味なり卒業期/秋尾敏〉の落第生感、〈薔薇抱え世間が見えてきたと言う/秋尾敏〉ツッコミ待ち句、〈男も男だ出目…

三村純也『一』角川文化振興財団

俳句に向くのは、もう何を書くのも億劫になったとき。書いても書き足りないときではなく書くのに倦むとき、と思った日に三村純也『一』角川文化振興財団を読む。〈包丁を研ぎ改めて桜鯛/三村純也〉「研ぎ改めて」の厳かさ、〈露草や藪のどこかに水鳴りて/…

土生重次『素足』角川書店

『覚えておきたい極めつけの名句1000』角川ソフィア文庫に収録されている〈銀杏落葉一枚咬みて酒場の扉/土生重次〉が気になった土生重次『素足』角川書店を読む。扉は「と」と読む。〈雪代や鐘の臍には打たれ艶/土生重次〉金属の冷ややかさ、〈有り余…

浜松市立図書館収蔵の全句集

浜松市立図書館に収蔵されている全句集と俳句集成のリスト。ただし季題別や全集の一巻や数巻で俳句を集めたものは除く。 野見山朱鳥全句集、牧羊社1971 中村汀女俳句集成全一巻、東京新聞出版局1974 久保田万太郎全句集、中央公論社1979 角川源義全句集、角…

黛まどか『B面の夏』角川書店

バスターミナルを見下ろしながら佐佐木定綱『月を食う』角川書店を読む。〈噛み遭わぬ男女は帰りテーブルに折り重なったフライドポテト/佐佐木定綱〉の意外で滑稽な視点。それから時代舎古書店で買って読んでいなかった黛まどか『B面の夏』角川書店を読む…

一人称の文芸と私性キメラ

『今井杏太郎全句集』角川書店に「俳句は一人称の文芸」と題された俳論が収められており、 それでも人間には、変身願望などという奇妙な欲望がひそんでいて、たとえば、男性が女性に変身して一句を作ってみたい、と思う人がいる。このような遊び感覚を楽しむ…

金子兜太『百年』朔出版

何も考えず、金子兜太『百年』朔出版をただ読んだ。〈山茶花の宿にころがる尿瓶かな/金子兜太〉山茶花と尿瓶の液体連想が合う、〈牡丹咲く黒犀が通りすぎたよ/金子兜太〉白黒・草獣の対比、〈鹿の眼に星屑光る秩父かな/金子兜太〉秩父の闇の深さ。 雲巨大…

「海鳴り星」『今井杏太郎全句集』角川書店

詩的挑戦は難解でなく平明でもできるのだろうか、と思い『今井杏太郎全句集』角川書店のうち「海鳴り星」を読む。〈うすらひのうごいて西国へむかふ/今井杏太郎〉少し西へ動いた薄氷と西国へ向かう自分と。〈さざなみのあふみに春の祭あり/今井杏太郎〉さ…