以太以外

空の色尽きて一月一日に/以太

読解

所以252

スピノザ主義者の哲学探究 日本軽佻派・大岡淳 双義仄用・複義偏用、愛憎は憎、得失は失、利害は害、緩急は急、成敗は敗、同異は異、禍福は福、老幼は老、車馬は車、 古人之辞、寛緩不迫故也 腰蓑の逆立つ遠州鬼踊/対馬康子(『百人』ふらんす堂) 虫の音の…

対馬康子『百人』ふらんす堂

ブログタイトルの百人を変換しようとして百年になって驚く。そういえば金子兜太『百年』という句集があった。〈ホッチキス滝はどこまで綴じられる/対馬康子〉滝を綴じるという感覚はいままでなかったけので新しい、滝はこちらとあちらを隔てる裂け目のよう…

なつはづき『人魚のころ』朔出版

〈切手貼るさっき小鳥がいた場所に/なつはづき〉小鳥来るではなく小鳥去る。その場所はどこへでも通じる場所だ。〈啓蟄やどんな森にもなる図書館/なつはづき〉啓蟄という生き物の芽吹きに、図書館も自然に還るのだ。〈嚔して守衛は顔を取り戻す/なつはづ…

望月哲土『望』

表紙がテカりすぎて写真を撮ると自撮りになる句集。百句収録されているが、すべてに詞書というより解説がついている。〈地道という地図にない道梅ひらく/望月哲土〉「地図にない道」という表現がいい。初春の期待感もある。〈靴下の左右が不明春の風邪/望…

滝浪武『羅針盤』牧羊舎

故・滝浪武さんの句集が届いた。〈さくらから手と足がでる異邦人/滝浪武〉省略が効いて笑える景になった。〈急流が眼下にありて春のピアノ/滝浪武〉ただならぬ景、ただならぬ音が奏でられそう。〈夏帽の少年馬の背にたてがみ/滝浪武〉生前「少年」という…

所以241

及其至於王所、與王同筺牀、食芻豢、而後悔其泣也。(荘子、斉物論) ↑驪姫 「火星に移民しよう、と言っているおめでたい人たちというのは、宇宙空間の過酷さを理解していない。また、宇宙との距離感を想像する能力を持っていない人たちの集まりだ」(「人は…

大塚凱『或』ふらんす堂

コーラと虹と火事と墓参の句集と思う。〈いつか住む街を迷へば鰯雲/大塚凱〉鰯雲には迷走の雲感がある。〈目つむりてゐても西日がつらぬくバス/大塚凱〉映画シルミドの最後に乗っていたバスもかんたんに銃弾に貫かれていた。〈秋よ詩を読むこゑが思つたよ…

涼野海音『虹』ふらんす堂

〈初旅や雲かがやいて雲の中/涼野海音〉飛行機と書かない飛行機句。〈寒卵非常口より光さす/涼野海音〉いまわたしたちは卵のなかにいます。〈履歴書の空欄に汗落ちにけり/涼野海音〉空欄は人事担当が読まないところだ。〈辛口のカレー勤労感謝の日/涼野…

三村純也『高天』朔出版

〈人に尾のありし頃より山椒魚/三村純也〉はるかむかしからの詩的な言い方。〈曲るたび路地暗くなる秋の暮/三村純也〉「~たび」はよくあり「曲がるたび」も頻出だけれど好みな俳句表現。〈動く看板光る看板十二月/三村純也〉暗いなかでも目立つ看板たち…

大木あまり『山猫座』ふらんす堂

〈病身にシャネル一滴寝正月/大木あまり〉間の抜けた矜持みたいなものを感じる。〈蟻地獄郵便物がどさと来る/大木あまり〉これからはじまる郵便処理地獄を思う。〈峰雲や離れ家のごとしんとして/大木あまり〉雲が離れ家という発想はおもしろい。〈蝶の去…

竹岡佐緒理『帰る場所』ふらんす堂

フォントのいい句集だ。〈校庭に教室の椅子運動会/竹岡佐緒理〉終わってから雑巾で脚をふくのも非日常感がある。〈冬の蜂死んで授業の再開す/竹岡佐緒理〉きっとひと悶着あったのだ。〈ストーブの灯油の匂ふ保護者会/竹岡佐緒理〉すこしトゲトゲして緊迫…

小原奈実『声影記』港の人

〈試験管の内壁くだる一滴の酸 はるかなる雲はうごかず/小原奈実〉試験管のうちと大気圏のうち、小と大の、でも同じく閉ざされたうちがわの変化の対比。〈読み終へし手紙ふたたび畳む夜ひとの折りたる折り目のままに/小原奈実〉手紙を書いた人はどんな思い…

田丸千種『弄花』朔出版

〈宇治川はやがて淀川夏あざみ/田丸千種〉宇治川と淀川では名だけで濁りも変わってきそうである。名前だけが違うだけなのに。〈水曜は週の真ん中虹立てり/田丸千種〉虹は水によってできることとアーチ状の虹の真ん中が盛り上がるかたちと、微妙なかかわり…

所以220

即便夜乘小船就之、經宿方至、造門不前而返。(世説新語、任誕) ↑旅の漢文。宿は一泊、至=造 巨大、細村星一郎による短詩の実験場 冢宰 (株)子どもの文化普及協会や(株)鍬谷書店といった、中小の業者に活路を見出した。/こうしたところは、ひとり出版…

麦芽糖2025年3月号

今月号から透明なビニールに入って麦が届くようになる。曰くつきになったクロネコゆうメールである。 麦2025年3月号 吉原の多差路を冬の金魚かな/対馬康子、花園通りと一葉桜・小松橋通りの交じる辺りだろう。吉原と金魚は近すぎるが、「冬の」がうまく緩和…

川上弘美『王将の前で待つてて』集英社

大寒波のなか『王将の前で待つてて』を読む。〈テレビ二台ちがふ番組スナック夏/川上弘美〉商店街とかのアットホームなスナックだろう。〈闘魚しづか昼のスナックカウンター/川上弘美〉これもスナックの景、ベタのちいさな水槽だろう。〈水槽の魚みな透け…

鈴木総史『氷湖いま』ふらんす堂

ものの名を問う句集だろう。〈加湿器がみづ吐き終へる夜明けかな/鈴木総史〉加湿器の水がある時間こそが夜なのかもしれない。〈花冷や流れぬものに堀のみづ/鈴木総史〉変わる花と変わらないように見える堀の対比。〈雨音は雨におくれてリラの花/鈴木総史…

中村和弘『荊棘』ふらんす堂

古い季語に新しい味わいをもたらす句集かな。〈パイプ椅子耀く下に蝶死せり/中村和弘〉体育館だろうか、硬さと柔らかさの対比。〈キリンの脚の巨き関節夏に入る/中村和弘〉キリンの足音も響く。〈ゼッケンの布ざらざらと秋日かな/中村和弘〉運動会の気配…

麦芽糖2025年1月号

麦芽糖・序 今年から、われらが『麦』は1・2月合併号となり、同人にも1冊しか郵送されなくなった。麦の存在感を出すためと会の今後のため、そして自らのために『麦』を読み尽くそうと考え、この麦芽糖をはじめる。読むのはおもに『麦』表紙2・特別作品・踏生…

藺草慶子『雪日』ふらんす堂

静岡新聞の新春読者文芸で〈手に金箔年賀はがきを完配す/以太〉が入選した日に『雪日』を読む。〈祈りけりわが白息につつまれて/藺草慶子〉白息が神秘的な雰囲気をつくる。〈すれちがふ巫女に鈴音花きぶし/藺草慶子〉花のすがたかたちと巫女の音とが合う…

月野ぽぽな『人のかたち』左右社

産経俳壇9月12日対馬康子選に〈国は夜ずっと流れているプール/以太〉が掲載された夜に『人のかたち』を読む。〈街灯は待針街がずれぬよう/月野ぽぽな〉も〈波打ち際は初夏の鍵盤指を置く/月野ぽぽな〉も見立て、見立ては日本の伝統芸の一要素とされる。〈…

西村麒麟『鷗』港の人

まだ台風10号がいる、雨。〈大量の朧ざぶんと湯が溢れ/西村麒麟〉湯ではなく朧が大量、でも溢れるのは湯という不可思議。〈靴の上に置く靴下や磯遊び/西村麒麟〉上下はそのときの気分で変わる。〈きらら虫呉茂一の訳に酔ひ/西村麒麟〉希臘神話かな。〈ど…

坂田晃一『耳輪鳴る』ふらんす堂

麦同人で麦メール句会の管理者である坂田晃一さんの句集『耳輪鳴る』が届いた。〈身の裡は夜空と思ふ竹夫人/坂田晃一〉星をかなしい心臓として〈桃啜る悪人ばかり出る映画/坂田晃一〉きっとアウトレイジ、それでめっちゃ汁でズボンを濡らしている。〈国も…

小田笑『銀輪』

麦同人、小田笑さんの句集が届いた。〈東京に傷があるから初蝶来/小田笑〉傷=創だろう。それを東京への入口として生まれてくる。〈春陰や金貨剥がせばちょこれいと/小田笑〉春陰が偽造金貨感を出している。〈飛んだのか飛ばされたのか石鹸玉/小田笑〉風…

阪西敦子『金魚』ふらんす堂

〈筋肉にひときは汗の溢れたる/阪西敦子〉筋肉質な人は汗製造機、しかもこれはからだを動かしている人だ。〈襟立てしことより落葉降り始め/阪西敦子〉むりくりに因果をつくることで詩になる。〈大試験前にいつぺん会つたきり/阪西敦子〉大試験の前後でま…

辻征夫『貨物船句集』書肆山田

ひどく体がつかれている。〈ひとことにひとつ胡蝶のかるく舞い/辻貨物船〉うなずくように。〈幾千の墓標の街や虫しぐれ/辻貨物船〉街の人はみな滅んでしまったような。〈つゆのひのえんぴつの芯やわらかき/辻貨物船〉信じてしまいそう。〈かつてありし大…

「和紙」『林翔全句集』コールサック社

もうすぐ浜松市でポエデイがあるので全句集を読む。〈かの童まだ遠凧につながれる/林翔〉遥か感がある。大きな景色だ。〈ものの芽をうるほしゐしが本降りに/林翔〉だんだん激しくなる雨。春も深まりあたたかくなる。〈訊きかへす梅雨の電話のなほ遠し/林…

正木ゆう子『玉響』春秋社

俳諧自由として〈地虫鳴く総面積を求めなさい/以太〉を胸に『玉響』を読む。〈春眠の繊毛戦ぐ耳の奥/正木ゆう子〉親しい人の耳であろう。〈以来そこにあるヘルメット走り梅雨/正木ゆう子〉事故か何かある出来事から彼はバイクに乗らなくなった。梅雨に思…

小川軽舟『無辺』ふらんす堂

〈かつ丼の蓋の雫や春浅き/小川軽舟〉春の雪が溶け、湿り始める気配をカツ丼の蓋の裏に見つける。〈/小川軽舟〉〈春郊の道あつまりて橋一つ/小川軽舟〉いいな。道の集まって橋となる様は確かに春めいている。〈新しき街に寺なしチューリップ/小川軽舟〉…

小澤實『澤』角川書店

〈秋風やカレーにソースかけて父/小澤實〉カレーにソース、たぶん味見もせずにソースをかける父。〈雪嶺まで信号五つすべて青/小澤實〉幸先が良い。田舎なので交差する道路は車が少ないのだと分かる。青っぽい雪。〈一支線二輛往復さくら咲く/小澤實〉の…