以太以外

蒼褪めた巨漢は笑う水澄んで 以太

塩見恵介『隣の駅が見える駅』朔出版

未明、『隣の駅が見える駅』を読んだ。〈リポビタンDの一滴昭和の日/塩見恵介〉ヒロポンにせよリポビタンDにせよ、昭和はそんなまがいものじみた薬物で動いていた。〈ゴールデンウィークをアンモナイトする/塩見恵介〉巣ごもりの日々である。〈のりたま…

中日歌壇朝日歌壇2021年9月12日

中日歌壇 島田修三選〈さながらに地獄を脱する蜘蛛の糸アフガニスタンを飛行機は発つ/小山肇美〉芥川龍之介の蜘蛛の糸であろう。〈女性から男を口説いてくれたならどんなに楽かと若き日思いぬ/坂部哲之〉女性の方が会話は得意だから。〈夫と我微妙に話しず…

吉田隼人『忘却のための試論』書肆侃侃房

目が覚めてしまった午前三時に『忘却のための試論』を読む。〈旋回をへて墜落にいたるまで形而上学たりし猛禽/吉田隼人〉決して幾何学ではない、まず見えもしない。〈枯野とはすなはち花野 そこでする焚火はすべて火葬とおもふ/吉田隼人〉生と死は表裏であ…

中日歌壇朝日歌壇2021年9月5日

中日歌壇 島田修三選第一席〈四本のささがき牛蒡つくる間にいらだち忘る夕立も上がり/祖父江寿枝〉日常の作業のなかで感情を整理していく。許すべき点も出たのかもしれない。〈いくつもの入道雲が重なりてスコアボードの背景となる/口野光康〉入道雲は選手…

中日歌壇朝日歌壇2021年8月29日

中日歌壇 島田修三選第二席〈苦瓜の葉の間の青き青き空日本列島梅雨明けにけり/亀井好子〉窓に簾のようにしてたて掛けて実る苦瓜だろう。第三席〈「大谷のホームランの音は美しい」アメリカ人は詩人が多い/坂神誠〉あっちの野球解説者はみんな詩人だ。〈遊…

佐佐木幸綱「群黎」『現代短歌全集』筑摩書房

〈海岸の跡地へ梅雨の星降れり/以太〉が麦誌上句会テーマ「海岸」の特選になっているのを確認した日、「群黎」を読む。〈何を聴く耳密林を繁らせてアフリカの地図わが裡にある/佐佐木幸綱〉アフリカの耳はいま砂漠、でも密林のほうがいい。〈ボーリング場…

中日歌壇朝日歌壇2021年8月22日

中日歌壇 島田修三選第一席〈頑固者お調子者もちゃんと居てめだか十匹社会を成せる/北村保〉大食らいや恥ずかしがり屋もいる。第二席〈オリンピック コロナ 台風 熱中症 ごちゃ混ぜ日本 ああ蟬時雨/岩瀬美子〉今は雨が続いています。小島ゆかり選第一席〈…

山階基『風にあたる』短歌研究社

『風にあたる』を読む。〈ヘアムースなんて知らずにいた髪があなたの指で髪型になる/山階基〉髪が髪型になるとき、やさしい指がかかわる。〈真夜中の国道ぼくのすぐ先を行くパーカーのフードはたはた/山階基〉真夜中の原付を追いかける。〈二十歳でも煙草…

中日歌壇朝日歌壇2021年8月15日

8月15日ということで中日新聞には平和の俳句が載っていた。いとうせいこう選〈洗えども洗えどもなお焼けピアノ/拝田章〉当時ピアノを持っていたのは上流階級だろう。すさまじさ。黒田杏子選〈兜虫兜太は戦争許すまじ/高山清子〉たぶんそうだっただろう。 …

谷川由里子『サワーマッシュ』左右社

静岡県浜松市にも蔓延防止等措置が適用された。〈日当たりのいい公園のブランコは夜になってもギラギラしている/谷川由里子〉余熱のようにして、昼がそこだけ続いているかのように。〈ルビーの耳飾り 空気が見に来てくれて 時々ルビーと空気が動く/谷川由…

中日歌壇朝日歌壇2021年8月8日

中日歌壇 中日春秋より小田急線刺傷事件について、〈漫画本閉ぢし青年しばしして取り出せしは経済書なり/大坪久米子〉。島田修三選第一席〈何かしら妙な矜持が剥れ落ちカップ焼きソバひとつ買い来る/梶村京子〉時には楽をしてもいい。第二席〈姑が大変だろ…

江戸雪『椿夜』砂子屋書房

磐田市中央図書館で借りた『椿夜』を読む。〈思い出す旅人算のたびびとは足まっすぐな男の子たち/江戸雪〉確かに算数の文章題に女の子はあまり出てこない。〈水平な音のながれる冷蔵庫君はわたしを忘れつづける/江戸雪〉冷蔵庫の「水平な音」とは何なのか…

中日歌壇朝日歌壇2021年8月1日

労組機関紙俳句欄で〈初夏や開け放たれる鳩舎の戸/以太〉が最優秀だった次の日は新聞歌壇デーの日曜日。 中日歌壇 島田修三選第二席〈染みのある「萬葉秀歌」めくりをれば都電の切符はさまれてゐる/梅村和生〉若き日、東京時代の愛読書か、旅をしてきた中…

伊藤一彦『微笑の空』角川書店

磐田市中央図書館で借りた『微笑の空』を読む。〈いつよりか男もすなるごみ出しをわれも励めり当然として/伊藤一彦〉新時代を生きるために必要なこと。〈兵役を経ずに六十代になりたりとゴミの袋を出しつつ思ふ/伊藤一彦〉も。〈鉛筆の尖りて赤し 憎しみに…

中日歌壇朝日歌壇2021年7月25日

中日歌壇 島田修三選第一席〈フォークダンス君まで廻るかそれだけが気掛かりだった遠き日のあり/藤井恵子〉隣を見ながらマイム・マイムを踊る。〈簡易局の入口の上に燕の巣笑みもて見上げ帰る客らは/吉田恵子〉糞が落ちてくるかもしれないから見上げる。小…

小林理央『20÷3』角川文庫

五歳から十五歳までの歌とのこと。〈道ばたのポストの口は今までに何回手紙を迎え入れたの/小林理央〉「おまえは今まで食べたパンの数を覚えているのか」とポストに言われそう。〈人間が生まれて初めて見る空とさいごに見る空おんなじ青かな/小林理央〉そ…

奥田亡羊『亡羊』短歌研究社

磐田市中央図書館で借りた『亡羊』を読む。〈宛先も差出人もわからない叫びをひとつ預かっている/奥田亡羊〉そして、ときどき誤配したりする。〈のどかなる一日を死者よりたまわりて商店街のはずれまで行く/奥田亡羊〉慶弔休暇だろう。悼むべきだが少し心…

中日歌壇朝日歌壇2021年7月18日

中日歌壇 島田修三選第二席〈片足を上げては水を払ひつつ浅瀬をゆっくり歩く青鷺/山本栄子〉水田などで獲物を狙う青鷺の足取り。小島ゆかり選第三席〈自宅にてコロナワクチン接種受く奥三河ここ無医地区なれば/大野富士夫〉愛知・東栄とのこと。無事を祈る…

ヨハネス・スコトゥス・エリウゲナの自然区分論について

十七世紀オランダの哲学者スピノザはその主著『エチカ』にて、スコラ学派が使った能産的自然natura naturans・所産的自然natura naturataという用語に汎神論的定義を与えた。スピノザ以前では九世紀のアイルランド出身で西フランク王国で活動したヨハネス・…

中日歌壇朝日歌壇2021年7月11日

中日歌壇 島田修三選第二席〈補聴器を初めて付けて食べる時キャベツ噛む音すさまじきかな/松岡準侑〉骨伝導音も補聴器では大きく聴こえるのか、知らなかった。〈「アカシアは萌え」で始まる女子校歌口ぱくだった音痴の私/後藤幸子〉先生から口パク指示が出…

石川美南『砂の降る教室』書肆侃侃房

折込チラシと段ボールで七夕飾りを作った日、『砂の降る教室』を読む。〈親知らずの治療控へてゐるごとき夕立雲を見上げをるなり/石川美南〉不安と郷愁と逃亡癖とが積み重なったような夕立雲だろう。〈半分は砂に埋れてゐる部屋よ教授の指の化石を拾ふ/石…

榊原紘『悪友』書肆侃侃房

※ 二読目です。(一読目)でも諸事情により書き終えらなかったので、途中まで載せます。 観念への憧れがある。実際の名は実体を表さないし、表された実体も歪で観念には至らない。 五千年後の語彙を想像してみてよ ティースプーンでスコーンを割る 榊原紘 な…

朝日歌壇2021年7月4日

今朝の中日歌壇は大雨による熱海の土石流災害報道のためお休み、11日に掲載されるとのこと。 朝日歌壇 佐佐木幸綱選第一首〈神職の注視の先をかろやかに田植機がゆく御田植神事/北野みや子〉機械もまた人事。高野公彦選〈田の跡の白き家並み吹きぬける風は…

千葉聡『微熱体』書肆侃侃房

雨続きで滅入る日、『微熱体』を読む。〈教科書など鞄の底に押し込んで夏は海辺のホテルでバイト/千葉聡〉本の形がはみ出た鞄を持って毎朝海へ通う、光り。〈コンビニまでペンだこのある者同士へんとつくりになって歩いた/千葉聡〉創作に手を染めた罪深い…

中日歌壇朝日歌壇2021年6月27日

中日歌壇 島田修三選第一席〈グーグルでわが町少し散歩すれば突如日傘の妻が現る/三上正〉日傘はGPS除けだったりして。第三席〈白鳥の哀しみほどではないとして布団の角で転ぶも悲し/林建生〉ずっと寝ていたいのに。〈横恋慕しないがよいと知己が言う一首…

穂村弘『シンジケート』講談社

〈別件の顔をしてくる会社員/以太〉が麦誌上句会テーマ「別」特選になっているのを見た日、『シンジケート』を読む。〈郵便配達夫の髪整えるくし使いドアのレンズにふくらむ四月/穂村弘〉郵便配達夫にメイルマンとルビ、そういう時代もあったのだろうか。…

中日歌壇朝日歌壇2021年6月20日

中日歌壇 島田修三選第一席〈雨ののち一方的に少年が恋したような夕焼けの街/坂神誠〉情熱だけの赤。かつての激しい思いが込められているような。第二席〈祖母の名は〈はん〉と〈とせ〉なり今の世のきらきらネームもやがて伝説/冬森すはん〉伝説にレジェン…

『鈴木裕之俳句集』昭和年間、海坂発行所

昭和年間の句を読む。〈栗園に花の渦まく農学部/鈴木裕之〉○学部の句は好き。〈真菰刈りて月に火星の隣り合ふ/鈴木裕之〉真菰生ふ川から天の川、宇宙を連想する。〈明日登る峰尖りをり吊し柿/鈴木裕之〉筆柿だろう。〈島々に民話多しや枇杷熟るる/鈴木裕…

中日歌壇朝日歌壇2021年6月13日

中日歌壇 島田修三選第二席〈助詞一字迷いながらもポストまで投函止めて葉書と帰る/築山恵美子〉葉書を寝かせるの、大事。〈はじめての赤いウィンナー都会の味早大生と少し飲んだ日/梶村京子〉都会にまちとルビ。赤いウィンナーが好きな世代がいる、父もそ…

津川絵理子『夜の水平線』ふらんす堂

新静岡の百町森へ行った日、『夜の水平線』を読む。〈受話器置く向かうもひとり鳥渡る/津川絵理子〉電話で気持ちは渡る。〈若狭より電気の届くふきのたう/津川絵理子〉原子力発電所とふきのとうの形状について。〈橋脚は水にあらがふ夏燕/津川絵理子〉夏…