新聞歌壇
西村和子特選一席に〈台風や鼓膜のなかを動く水/以太〉が採られ評もいただいた。片山由美子選〈テーブルの林檎一個の香りかな/小熊寿房〉それだけでもう部屋中香るくらいの。小川軽舟選〈天高し鞄に不合格通知/古川麻美子〉再チャレンジする気まんまん。…
タビノス浅草で読む。小池光選〈妻子率て父ひとり待つふるさとへ帰りし頃がしあわせだった/藤川幸雄〉行く場所が決まっているという幸福。〈空色のシャツブラウスを着て行こう安くておいしいお芋を買いに/楠井花乃〉空色と芋の紫の対照がおもしろい。栗木…
伊藤一彦選〈左目は右目の景色を見れないが彼ら一対である凛々しさ/宇井香夏〉それひとつだけでも十分であるけれど一対であることで何かを全うできるものとして両目。そして、他にも。ちなみにこの人は加藤治郎一席にも〈JR千葉駅の南側にある暗い大きな…
〈虫鳴いて夜の空き地となりにけり/以太〉が西村和子選で入選していた。井上康明選〈秋の夜の解の公式言うてみる/大戸政子〉秋の夜のさびしさから逃れるための解の公式だろう。〈頂に皇子の墓標や雁渡る/古賀勇理央〉非業の死を遂げた大津皇子の墓標。雁…
小林貴子選〈台風の行く手行く手にアナウンサー/額田浩文〉アナウンサーと書くことで同じアナウンサーが台風の進路に次々と出現するようにも読める。〈露の世のかくも短き詩を創り/内藤孝〉すぐに消えそうな短さの俳句。長谷川櫂選〈あてもなく大秋晴の一…
高野公彦選〈大谷の打ちしボールを追うカメラオークランドの月も映せり/三船武子〉パン、パンと映像が決まる。〈見張れるを見せつけてをり百均の自動精算機にカメラ付く/前川泰信〉この監視カメラ、電線はつながっていないかも。百均だし。永田和宏選〈昔…
馬場あき子選〈真夜中の二時は不可思議我が窓に月光降ればカブトムシも来/戸沢大二郎〉神秘的な真夜中の景。〈山羊の乳もらいにゆきし家いずこ山道消えて家立ち並ぶ/出口真理子〉山羊乳は幼いころの思い出か。佐佐木幸綱選〈店主老い「天野商店」廃業す離…
コメダ珈琲で読売新聞の静岡版を手にとった。渡英子選佳作〈蝶になり肩に何度もまといつくお前が誰かすぐに分かるよ/大庭拓郎〉評は蝶が死後の作中主体でその蝶が「お前が誰かすぐに分かるよ」と言っていると書く。そうなら永遠の相から見ている蝶だ。もち…
〈あらかたは食へる野の物敗戦日/池田崇〉な終戦記念日に毎日新聞を買った。伊藤一彦選〈突然の葬儀に結ぶネクタイを首が拒否する断固拒否する/朝岡剛〉絞首刑を連想させる。〈人見知り激しき吾娘は心地よい居場所をいまだ見つけずにいる/寶満光保〉家も…
サルマン・ラシュディ氏の刺傷を知った朝、朝日新聞を読む。高野公彦選〈マイク持つ安倍元総理に写りこむ犯罪者となる前のその顔/園部洋子〉省略が効いているが「安倍元総理に」は「安倍元総理(のテレビ画面)に」ということか。永田和宏選〈缶ピース長髪…
加藤治郎選〈きみにだけ見える青信号がありどんどん行ってしまう さようなら/木村槿〉いつまで君は赤信号なの?とか言われそう。〈お祈りをされる私も煌々と闇を切り裂く電車の一部/花浜紫檀〉脱力、表面張力を失い電車と一体化した就活生。篠弘選〈スター…
中日歌壇 島田修三選第一席〈願えどもタイムリープはできなくて二度と会えない祖母のすき焼き/伊藤すみ子〉四日市の新星ついに一席、どんな味のすき焼きだろうか。甘いのだろうか。〈そこはかとやわらかそうな印象で馬の骨とはひとを指すなり/漕戸もり〉「…
米川千嘉子選〈高校野球応援隊の母たちは黒髪なびかせ姉さんのよう/角田勇〉母たちがねえさんたちのように若々しく見えた。加藤治郎選〈スーパーは更地になってスーパーで買ったヘアピンも消えてしまった/福島さわ香〉春日井市の更地短歌、中日歌壇にも12…
中日歌壇 島田修三選第一席〈子の口に子供は消えて「永久」という名の大人がいつしか揃う/山崎美帆〉謎掛けのような歌だが評のように歯のことだろう。ちなみに私にはまだ子供がいる。第三席〈左手に見えてきました銀杏を独り占めする人が祖父です/伊藤すみ…
伊藤一彦選〈尊敬を出来ない人に恋をしてどんどんわたし年老いてゆく/大石聡美〉老練になるともいう。米川千嘉子選〈真実を暴くみたいに純白の鉄砲百合の蕾がひらく/住吉和歌子〉百合を見るとこの歌を思うだろう。加藤治郎選〈USB端子がうまく挿さらない…
中日歌壇 島田修三選第三席〈デジタルとふ鎧を来たるモーツァルト死語となりゆく“摩り切れるほど聴く”/上竹秀幸〉思うのはレコードかカセットテープか。〈巻貝はコクトーの耳砂浜に少し埋もれで秋の声聴く/滝上裕幸〉評にコクトーの詩の一節。光景が鮮やか…
篠弘選〈面接に五人の子をもつ女採りき日々行列のできる食堂/鈴木圭子〉女にひととルビ、もりもり食べたくなる食堂だ。伊藤一彦選〈風船が部屋の真ん中漂って答えが出ない私に似てる/村山仁美〉映画の気球クラブみたいな、夢いっぱいで不安で情景。〈街角…
中日歌壇 島田修三選第一席〈モノクロの家に突然色が付く子の恋人の花のスカート/二ツ木美智子〉結婚とかではなく、若い恋人なのだと思う。〈深みゆく秋のあしたの合はせ鏡私の知らない私を映す/冬森すはん〉「これは誰?」とまでは行かなくても変わりゆく…
加藤治郎選〈みかん箱がちょこんと乗ってる室外機長くて楽しい冬のはじまり/おでかけサキ〉冬支度だろう。どこのみかんか気になるのは浜松市民だから。〈過去からの欠片が集う蚤の市 モザイク壁画のレーニンのそば/人子一人〉ロシアの景が珍しい。篠弘選〈…
中日歌壇 島田修三選第一席〈ひとところ川面が光る秋の午後さびしき者はここへ来よとぞ/三井久美〉川面の光を声と読む。第二席〈みずからを鼓舞して生きんSLよ汗敢えて乗務の若き日ありき/村松敏夫〉浜松市より、天竜浜名湖鉄道かなと思う。〈木に登る朝…
米川千嘉子選〈ファブリーズせつせと噴霧し禊する平成生まれのあつけらかーん/花嶋八重子〉あつけらかーんが脳に残る。〈つむじ風になればよかった囚われて埋められるならビルのすき間に/横田博行〉なりたいもの、埋められる場所がおもしろい。人間でなけ…
島田修三選第一席〈小春日を「老婦人の夏」と呼ぶ国にアンゲラ・メルケル凜凜と生きたり/山守美紀〉ドイツ語を勉強したくなる。第二席〈風やみてためらひのなき書き順のやうに来たりぬけふの団円/冬森すはん〉硬筆ではなく毛筆。〈音だけをたよりに捜さん…
島田修三選第二席〈投獄のジャーナリスト二百人超黒を黒とは言えない世界/滝上裕幸〉自然状態か国家状態か。〈抑え込み絞めて固めて十文字やっと縛ったダンボールだが/柴田きみ子〉ボワっと弾けた、のだろう。〈くい込みて抜けぬ包丁人質に南瓜野郎を湯浴…
図書館俳句ポスト八月の題「天の川」で〈へその緒の桐箱白し天の川/以太〉が特選だった週の中日新聞より。 中日歌壇 島田修三選第二席〈風の道に立てられてゐき洗ひ張り板路地の記憶に母が住みゐる/冬森すはん〉かなり字余りなのか。でも路地の風景が鮮や…
島田修三選第二席〈背後から頭上を越えて青空の高みへヘリが吸い込まれてゆく/今井久美子〉スパイ映画の一場面のようだ。第三席〈うろこ雲リヤウインドに映しつつ前車は秋を背負って走る/安江弘行〉前車が秋を背負うなら気づかぬうちに我が車も背負わせて…
島田修三選〈乗り物の名前を問えばバス、電車、肩車と答う認知症の夫/鈴木千慧子〉肩車は子供の乗り物であり、すでに夫の心は幼児に返っているのか。〈案外と清女は喜ぶやも知れず枕草子のオンライン授業/増崎秀敏〉あいつなら、ね。小島ゆかり選第一席〈…
島田修三選第三席〈無いはずの鍵はいつでもここに有り有るはずの庭は静かに朽ちる/倉知典子〉家は売るはず、庭は手元に残しておくはずだったのだろう。ままならないのが人生。〈凡庸な自分の歌にへこむ日はシンクを磨きやかんも磨く/二ツ木美智子〉凡庸こ…
島田修三選第一席〈就職の決まらぬ悪夢に目が覚めて年金制度暮らしの我と気がつく/坂神誠〉失業時代かもしれない。金が途切れるかもしれないという恐怖が日常生活者にはある。〈旅姿した牧水が徳利さげまだ佇っているこんな山路に/梶村京子〉これは門谷の…
島田修三選第一席〈「八十歳にもう手が届く」とつぶやけば「長い手だね」と娘にさすられる/塩谷美穂子〉八十歳にはちじゅうとルビ。「手が届く」の意味を二重にとるおもしろさ。作中主体の立ち位置を考えさせられる。〈鍵盤の黒が少ない朝礼の横一列のマス…
中日歌壇 島田修三選第三席〈亀の子の一二三四五、十二十、五十六十海へ海へと/中山いつき〉短歌は歌なのだと改めて思う。〈スマホ鳴り「十階ですよ見えますか」手を振るだけの面会終わる/安形順一〉発話は患者の方だろうか。〈助詞の「に」はforにto足しa…