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以太以外

病名は人間性や夕野分 以太

小津夜景『フラワーズ・カンフー』ふらんす堂

ガスコンロがひとつ息絶えチェーンが硬く張りすぎた日、小津夜景『フラワーズ・カンフーふらんす堂を読む。〈スプーンの硬さ泉にかほがあり/小津夜景〉のかほは飯島晴子の顔だろう、〈泉の底に一本の匙夏了る/飯島晴子〉。〈てのひらを太鼓にかざす鳥の恋/小津夜景〉手のひらへ伝わる太鼓の振動のような鳥の恋、その震え。まさに音に触る。〈そらりすの光をまげてこすもすは/小津夜景〉惑星ソラリス。〈空耳のやまざる白き昼なればガアゼをかざし空を吸ひとる/小津夜景〉小、しか合っていないけれど小林大吾の歌詞「薬指だけに処方箋がいる」のような白々しく空耳、〈空耳とはぐれて茶葉を煮てをりぬ/小津夜景〉。〈とびらからくちびるまでの朧かな/小津夜景〉とびらが身体の一部のようでくちびるはビルのよう。

晩春のままに誤配のままに鳥 小津夜景