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以太以外

病名は人間性や夕野分 以太

2020-01-01から1ヶ月間の記事一覧

西村麒麟『鴨』文學の森

『現代俳句』ティータイム欄に拙文「おとな乳歯」が載った号でそのティータイムの休止を知った日、西村麒麟『鴨』文學の森を読む。〈獅子舞が縦に暴れてゐるところ/西村麒麟〉「縦に」が意外、秩序だっているように見えて実は箍が外れている。〈足裏のツボ…

鉄塔の夢

底面が六畳ほどある直方体の鉄塔を昇っている。鉄塔の外側には隙間から下が覗ける鉄階段が据え付けられている。その鉄階段を集団で螺旋に昇っている。ディズニーランドの待ち行列のようになかなか上に進まない。前後の人と談笑する。鉄塔の頂きまで昇りつめ…

松下カロ『白鳥句集』深夜叢書社

雇用保険は今どのくらい貰えるのかについて考えた日、松下カロ『白鳥句集』深夜叢書社を読む。全句白鳥というわけではなく〈アパートの外階段を鳥渡る/松下カロ〉のような下町風情な鳥の句もある。〈海といふガーゼ一枚白鳥來る/松下カロ〉ガーゼ化した海…

「鏡騒以後」「補遺」『八田木枯全句集』ふらんす堂

燧石を買った雨の日、『八田木枯全句集』を読み終わる。〈水鳥はうごかず水になりきるや/八田木枯〉浮寝鳥の寝とは水への同化への意思、という物語。〈朧とはたとへて言へば二枚舌/八田木枯〉朧はいたずらに枚数を重ねない、重ねて二枚くらい。〈蜥蜴走す…

佐山哲郎『娑婆娑婆』西田書店

雹降りで指が濡れ悴む日、佐山哲郎『娑婆娑婆』西田書店を読む。〈魚の氷に上る坐薬の副作用/佐山哲郎〉氷に上がる魚と直腸に上がる坐薬の対比、副作用はヒリヒリとするような言語体験。〈母の日のいびつでなまぐさい鞄/佐山哲郎〉母と鞄と、何かを容れる…

吉川宏志『石蓮花』書肆侃侃房

入野協働センターでボードゲームをした日、妻の運転に揺られながら吉川宏志『石蓮花』書肆侃侃房を読む。〈パスワード******と映りいてその花の名は我のみが知る/吉川宏志〉隠された花の名が頭から離れない。オミナエシか。〈吹き口をはずしてホルン…

「鏡騒」『八田木枯全句集』ふらんす堂

雨の日、「鏡騒」『八田木枯全句集』ふらんす堂を読む。〈大冬木そらに思想をひろげたる/八田木枯〉純粋な論理である思想は、冬木の寒々しさに似る。〈蝶を飼ふ人差指はつかはずに/八田木枯〉人差指は対人のための指ゆえに蝶には行使しない。〈春よりもわ…

岡田一実『小鳥』マルコボコム

ロキソニンSテープを買った日、岡田一実『小鳥』マルコボコムを読む。〈駆け上がれば水仙肺に痛きかな/岡田一実〉河岸段丘を駆け上がった呼吸困難、水仙のかたちから来る痛みの連想。〈うつくしく檸檬をぬらす島が待つ/岡田一実〉船でその島へ向かう。木…

斉田仁『異熟』西田書店

局内異動はあるかもと思った日、斉田仁『異熟』西田書店を読む。〈黄金週間終わるブラシで鰐洗い/斉田仁〉「黄金」と「鰐」で南洋王の風格。〈夏浅し老人ホームのおもちゃ箱/斉田仁〉呆け防止の器具だろう、しかし「老人」と「おもちゃ」字面は意外性に満…

「夜さり」『八田木枯全句集』ふらんす堂

放送大学の「漢文の読み方」単位認定試験を受けた日、「夜さり」『八田木枯全句集』ふらんす堂を読む。〈鶴は引く人差指のあひだより/八田木枯〉水や砂の漏れるように指の間を引く。〈うすらひや空がもみあふ空のなか/八田木枯〉最初の空は薄氷のなかに、…

「天袋」『八田木枯全句集』ふらんす堂

妻子が病にたおれたので足裏に湿布を貼り「天袋」を読む。〈卵黄のまんなかにゐる夏景色/八田木枯〉「ゐる」ということは作中主体の視線が卵黄のなか。〈ゆふぐれは紙の音する櫻まじ/八田木枯〉「紙の音」という視点、紙は夕の色を含みあたたかに。〈鳥は…

戸田響子『煮汁』書肆侃侃房

林檎を買った日、戸田響子『煮汁』書肆侃侃房を読む。〈乾杯でちょっと遠い人まぁいいかと思った瞬間目が合ったりする/戸田響子〉そしてすぐ目を逸したりする。〈エサが欲しいわけではなくて鯉たちの口の動きが送る警告/戸田響子〉鯉世界の破滅、あるいは…

岡野大嗣『サイレンと犀』書肆侃侃房

こども園からのお熱コールで町一つと町半分の配達を見捨てて帰った日、岡野大嗣『サイレンと犀』書肆侃侃房を読む。〈校区から信号ひとつはなれればいつも飴色だった夕焼け/岡野大嗣〉児童にとっての異界はいつも夕焼けだった。〈友達の遺品のメガネに付い…

「あらくれし日月の鈔」『八田木枯全句集』ふらんす堂

労組新春のつどいの日、「あらくれし日月の鈔」を読む。〈再会やピアノの端に雪降れり/八田木枯〉「ピアノの端」に「雪」という景へのこだわり。〈濤の間に歌留多の夜のたゆたひて/八田木枯〉波の躍動と児戯心の躍動と〈平仮名に波がかぶさる歌留多かな/…

『寺山修司青春歌集』角川文庫

寺山修司というと私は川崎市の海岸地区を思い出す。暑すぎた夏の日々を、血の匂いのする夜の色彩を。それは戦後昭和の青春における体臭に似ているのかもしれない。〈啄木祭のビラ貼りに来し女子大生の古きベレーに黒髪あまる/寺山修司〉「古きベレー」に貧…

奥坂まや『妣の国』ふらんす堂

長靴にゴムを塗った日、奥坂まや『妣の国』ふらんす堂を読む。〈曼珠沙華茎に速度のありにけり/奥坂まや〉茎の直線性を「速度」とした妙手、〈まつすぐに此の世に垂れてからすうり/奥坂まや〉烏瓜の異界性を異界や他界などの単語を使わずに表現する。〈み…

岡野大嗣『たやすなさい』書肆侃侃房

出張が重なると転勤すると聞いた日、岡野大嗣『たやすなさい』書肆侃侃房を読む。〈パーカーの絵文字をさがすパーカーがとどいてうれしい気持ちのために/岡野大嗣〉パーカーは詩人の戦闘服、〈ここからの坂はなだらで夕映えてムヒで涼しい首すじだった/岡…

「汗馬楽鈔」『八田木枯全句集』ふらんす堂

「癖に負けた」を桑名で聞いた日、『八田木枯全句集』の「汗馬楽鈔」を読む。〈七輪に祭過ぎたる影ありぬ/八田木枯〉祭後、影もまだ華やいでいるけれど七輪という地味な器物に落とされた影は哀愁を誘う。誰の影というより空気の影。〈凍蝶に天あり天をとば…

谷川電話『恋人不死身説』書肆侃侃房

連休明けの物流に圧倒された日、谷川電話『恋人不死身説』書肆侃侃房を読む。〈「さみしい」と書いてあるのを期待して毎日開くきみのウェブ日記/谷川電話〉義務として。〈自動車できみがむかえにきてくれる このまま轢いてほしいと思う/谷川電話〉恋愛はあ…

瀬戸正洋『へらへらと生まれ胃薬風邪薬』邑書林

プラスチックゴミの日、瀬戸正洋『へらへらと生まれ胃薬風邪薬』邑書林を読む。〈蒲公英や爆発しない手榴弾/瀬戸正洋〉凄いことを言っていそうで単に散種なのかもしれない、〈蒲公英や原子力発電所は壊れる/瀬戸正洋〉とともに。〈月光は血液縄跳をする男…

瀬戸正洋『Z湾』邑書林

咳にはムコダイン、瀬戸正洋『Z湾』邑書林を読む。〈掌の切符ぐにやぐにや夏帽子/瀬戸正洋〉夏帽子をかぶる男の心の内、焦燥をぐにやぐにやの切符が想像させる。〈出社拒否して玉葱の微塵切り/瀬戸正洋〉音に勢いがある、〈ハイソックスルーズソックス卒…

岡田幸生『無伴奏』ずっと三時

娘の前髪を切った日、岡田幸生『無伴奏』ずっと三時を読む。それぞれ〈無伴奏にして満開の桜だ/岡田幸生〉〈さっきからずっと三時だ/岡田幸生〉から。「〜だ」という断定は自由律俳句特有の表現である。〈きょうは顔も休みだ/岡田幸生〉顔は休むとどんな…

天坂寝覚『新しい靴』随句社

交差点に横倒しになった軽自動車を警察官二人が押して戻したのを見た日、天坂寝覚『新しい靴』随句社を読む。〈今日を使いきってこどもが寝ている/天坂寝覚〉「使いきって」ができる幸福、〈雨がすこし見える本屋の本すこし読む/天坂寝覚〉過剰ではないほ…

松田俊彦句集withえんの会

ツバメノート株式会社謹製装幀の句集。俳句とも川柳とも書かれず。〈愛される範囲を葱は知っている/松田俊彦〉の葱の妙、〈心深くに国籍のない舟繋ぐ/松田俊彦〉この世の舟ではないかもしれぬ。〈ひまわりの撃たれた音を知っている/松田俊彦〉北野武は根…

松本てふこ『汗の果実』邑書林

掛川市の大池公園で抹茶を飲み、法多山尊永寺で初詣を済ませ、松本てふこ『汗の果実』邑書林を読む。〈錠剤をたくさん持つて遠足に/松本てふこ〉老人会とも色彩ゆるきファッションメンヘラとも読める。〈だんじりのてつぺんにゐて勃つてゐる/松本てふこ〉…

曾根毅『花修』深夜叢書社

参謀の作戦力と組織力、山崎豊子の構成力、『不毛地帯』を読み終えた日、曾根毅『花修』深夜叢書社を読む。〈初夏の海に身体を還しけり/曾根毅〉「還し」の実感、〈爆心地アイスクリーム点点と/曾根毅〉爆心地は観光地、〈身籠れる光のなかを桜餅/曾根毅…

光森裕樹『山椒魚が飛んだ日』書肆侃侃房

プレスバターサンドを貰った日、光森裕樹『山椒魚が飛んだ日』書肆侃侃房を読む。〈牛飼ひが連れて歩くは購ひし牛、売りにゆく牛、売れざりし牛/光森裕樹〉最後の七が残る。横書きだと分からないけれど縦書きで中黒ではなく読点にすると短歌の重心が右にズ…

榮猿丸『点滅』ふらんす堂

飯田公園で臘梅と水鳥を見て、乎那の峰の麓で冬蜂の斃れ伏すのを見たあと、榮猿丸『点滅』ふらんす堂を読む。〈真上よりみる噴水のさみしかり/榮猿丸〉これは噴水そのものというより、見ている場所であるオフィスビルの高層階の無機質さ。〈桐の花キャッチ…

西原天気『けむり』西田書店

端末を駐車場に忘れた日、西原天気『けむり』西田書店を読む。〈まばたきの軽さに浮いてあめんぼう/西原天気〉軽さは重量ではなく感触、〈ペン先に雪降る音のしてをりぬ/西原天気〉とあり方が似ている。〈まだなにも叩いてゐない蠅叩/西原天気〉実績では…

鈴木牛後『にれかめる』角川書店

音のない部屋のためにラジオ受信機を買った日、鈴木牛後『にれかめる』角川書店を読む。〈手にのせてなほも深雪と呼びにけり/鈴木牛後〉てのひらで雪となっても深雪と呼ぶ、それは記憶とともに存在するものだから。〈牛の尾の無風に揺れて草青む/鈴木牛後…