以太以外

国は夜ずっと流れているプール 以太

2021-11-01から1ヶ月間の記事一覧

渡辺松男『雨る』書肆侃侃房

〈病棟に孤独の落ちてゐた朝はいちまいの楓のやうに拾ひぬ/渡辺松男〉孤独→楓の転換が鮮やか。〈生は死のへうめんであるあかゆさにけふ青年は遠泳したり/渡辺松男〉遠泳しているかのような息継ぎのような生として捉えた。〈こゑのうらこゑのおもてとひるが…

江戸雪『昼の夢の終わり』書肆侃侃房

〈白雲がとてもまぶしい春の日にあなたと椅子を組み立ててゆく/江戸雪〉組み立てるのはなんでもいいけれど、椅子なのがいい。居場所ができるから。〈ストライプの日傘をさして川へゆくときどき風が胸をぬけつつ/江戸雪〉大阪の運河と少し日の強すぎる町並…

渡辺松男『雨る』書肆侃侃房

〈癌のなかにゐずまひ正してきみはありゐずまひはかなし杏子のかをり/渡辺松男〉医師は杏林ともいう。最後の「杏子のかをり」の調べにクラっと来る。〈死後の永さをおもひはじめてゐるわれはまいにち桜はらはらとちる/渡辺松男〉数十億年の孤独に。〈黒煙…

毎日歌壇2021年11月29日

篠弘選〈面接に五人の子をもつ女採りき日々行列のできる食堂/鈴木圭子〉女にひととルビ、もりもり食べたくなる食堂だ。伊藤一彦選〈風船が部屋の真ん中漂って答えが出ない私に似てる/村山仁美〉映画の気球クラブみたいな、夢いっぱいで不安で情景。〈街角…

中日歌壇朝日歌壇2021年11月28日

中日歌壇 島田修三選第一席〈モノクロの家に突然色が付く子の恋人の花のスカート/二ツ木美智子〉結婚とかではなく、若い恋人なのだと思う。〈深みゆく秋のあしたの合はせ鏡私の知らない私を映す/冬森すはん〉「これは誰?」とまでは行かなくても変わりゆく…

渡辺松男『雨る』書肆侃侃房

週刊金曜日の金曜俳句に〈短調の隣より漏る室の花/以太〉が載っていた日、『雨る』のⅠを読む。〈ゆふかげはわが身を透かし地にあれば枯蟷螂にすぎぬたましひ/渡辺松男〉枯蟷螂に自分を仮託する、その自分、ことわが身は夕影に透けているという。危うい自己…

毎日歌壇2021年11月22日

加藤治郎選〈みかん箱がちょこんと乗ってる室外機長くて楽しい冬のはじまり/おでかけサキ〉冬支度だろう。どこのみかんか気になるのは浜松市民だから。〈過去からの欠片が集う蚤の市 モザイク壁画のレーニンのそば/人子一人〉ロシアの景が珍しい。篠弘選〈…

中日歌壇朝日歌壇2021年11月21日

中日歌壇 島田修三選第一席〈ひとところ川面が光る秋の午後さびしき者はここへ来よとぞ/三井久美〉川面の光を声と読む。第二席〈みずからを鼓舞して生きんSLよ汗敢えて乗務の若き日ありき/村松敏夫〉浜松市より、天竜浜名湖鉄道かなと思う。〈木に登る朝…

毎日歌壇2021年11月16日

米川千嘉子選〈ファブリーズせつせと噴霧し禊する平成生まれのあつけらかーん/花嶋八重子〉あつけらかーんが脳に残る。〈つむじ風になればよかった囚われて埋められるならビルのすき間に/横田博行〉なりたいもの、埋められる場所がおもしろい。人間でなけ…

中日歌壇2021年11月14日

島田修三選第一席〈小春日を「老婦人の夏」と呼ぶ国にアンゲラ・メルケル凜凜と生きたり/山守美紀〉ドイツ語を勉強したくなる。第二席〈風やみてためらひのなき書き順のやうに来たりぬけふの団円/冬森すはん〉硬筆ではなく毛筆。〈音だけをたよりに捜さん…

渡辺松男『寒気氾濫』書肆侃侃房

〈約束のことごとく葉を落とし終え樹は重心を地下に還せり/渡辺松男〉落葉で樹の重心が変わるという発想が哀しくも冬めく。〈アリョーシャよ 黙って突っ立っていると万の戦ぎの樹に劣るのだ/渡辺松男〉人が木より勝るとしたら話し動くがゆえに。〈捨てられ…

中日歌壇2021年11月7日

島田修三選第二席〈投獄のジャーナリスト二百人超黒を黒とは言えない世界/滝上裕幸〉自然状態か国家状態か。〈抑え込み絞めて固めて十文字やっと縛ったダンボールだが/柴田きみ子〉ボワっと弾けた、のだろう。〈くい込みて抜けぬ包丁人質に南瓜野郎を湯浴…

黒瀬珂瀾『ひかりの針がうたふ』書肆侃侃房

巨大な箱に入っていた『ひかりの針がうたふ』を読む。〈しばらくを付ききてふいに逸れてゆくカモメをわれの未来と思ふ/黒瀬珂瀾〉今の自分という本質がもしあるならそれを逸れてゆく実存がカモメということか。〈海のいづこも世界の喉と思ふとき雲量8は7…

立花開『ひかりを渡る舟』角川書店

〈セーラー服色のチューブを探してる一気に塗ってしまいたくなり/立花開〉セーラー服を着ていることの煩わしさなどがあるのだろう、だから一気に片付けたい。〈セーラーを脱いだら白い胸にある静かな風をゆるす抜け道/立花開〉も。谷間だろうか。風音が爽…