以太以外

蒼褪めた巨漢は笑う水澄んで 以太

田島健一『ただならぬぽ』ふらんす堂

ガスコンロが点かずリアタイヤが斜めな日、田島健一『ただならぬぽふらんす堂を読む。〈蛇衣を脱ぐ心臓は持ってゆく/田島健一〉脱がれる蛇衣のなかで何が行われているかを人は知らないがゆえに、「心臓を持ってゆく」は斬新さと適切さを備えている。〈帆のような素肌ラジオのように滝/田島健一〉帆とラジオで夏空へ景が広がる。そして滝風を浴びる素肌。〈郵便の白鳥を「は」の棚に仕舞う/田島健一〉「し」の棚ではないということ。〈家のところどころを直し潤目鰯/田島健一〉日曜大工のあとSh音が脳に残る。〈寒椿空気のおもてがわに咲く/田島健一〉空気のおもてがわとは裏拍に対する表拍のようなものか。〈芽吹く江ノ島天国のようなパーマ/田島健一〉橋を渡って行ける極楽浄土のような春先の江ノ島、そこにいたパンチパーマの男。〈菜の花はこのまま出来事になるよ/田島健一〉出来事は「ふと、起こった〈こと/事件〉」(三省堂国語辞典第七版)、「ふと」のさりげなさが菜の花っぽい。〈遠雷やぽっかり空いている南/田島健一〉北と南であきらかに雲の量と空の色が違う景の大きさ。動の北と静の南と。〈内側の見えぬ小学校に雪/田島健一〉外側だけは見えていて、内側は確かに存在するはず。その外側を覆うように降る雪、内側はますます遠くなる。内側は明治なのかもしれない。

着ぶくれて遊具にひっかかっている 田島健