2021-01-01から1年間の記事一覧
〈さくらからさくらをひいた華やかな空白があるさくらのあとに/荻原裕幸〉その空白は決して虚しくない。〈ここはしづかな夏の外側てのひらに小鳥をのせるやうな頬杖/荻原裕幸〉「夏の外側」という疎外感がなじむ。〈皿にときどき蓮華があたる炒飯をふたり…
加藤治郎選〈きみにだけ見える青信号がありどんどん行ってしまう さようなら/木村槿〉いつまで君は赤信号なの?とか言われそう。〈お祈りをされる私も煌々と闇を切り裂く電車の一部/花浜紫檀〉脱力、表面張力を失い電車と一体化した就活生。篠弘選〈スター…
中日歌壇 島田修三選第一席〈願えどもタイムリープはできなくて二度と会えない祖母のすき焼き/伊藤すみ子〉四日市の新星ついに一席、どんな味のすき焼きだろうか。甘いのだろうか。〈そこはかとやわらかそうな印象で馬の骨とはひとを指すなり/漕戸もり〉「…
名古屋市の鶴舞(つるま)公園は名古屋市昭和区鶴舞一丁目にあり、明治四十二年に名古屋で最初に整備された公園*1だ。小酒井不木の「名古屋スケツチ」には なほ又名古屋市民に近頃追々喜ばれ出した鶴舞公園はスケツチの種にならぬことはないけれど、公園など…
〈そとは雨 駅の泥めく床に立つ白い靴下ウルトラきれい/柴田葵〉ウルトラは広告宣伝の強調のための文句だったのかもしれない。異常なほどの低視線がある。〈紫陽花はふんわり国家その下にオロナミンC遺棄されていて/柴田葵〉オロナミンCに実存感が出る。…
米川千嘉子選〈高校野球応援隊の母たちは黒髪なびかせ姉さんのよう/角田勇〉母たちがねえさんたちのように若々しく見えた。加藤治郎選〈スーパーは更地になってスーパーで買ったヘアピンも消えてしまった/福島さわ香〉春日井市の更地短歌、中日歌壇にも12…
中日歌壇 島田修三選第一席〈子の口に子供は消えて「永久」という名の大人がいつしか揃う/山崎美帆〉謎掛けのような歌だが評のように歯のことだろう。ちなみに私にはまだ子供がいる。第三席〈左手に見えてきました銀杏を独り占めする人が祖父です/伊藤すみ…
伊藤一彦選〈尊敬を出来ない人に恋をしてどんどんわたし年老いてゆく/大石聡美〉老練になるともいう。米川千嘉子選〈真実を暴くみたいに純白の鉄砲百合の蕾がひらく/住吉和歌子〉百合を見るとこの歌を思うだろう。加藤治郎選〈USB端子がうまく挿さらない…
中日歌壇 島田修三選第三席〈デジタルとふ鎧を来たるモーツァルト死語となりゆく“摩り切れるほど聴く”/上竹秀幸〉思うのはレコードかカセットテープか。〈巻貝はコクトーの耳砂浜に少し埋もれで秋の声聴く/滝上裕幸〉評にコクトーの詩の一節。光景が鮮やか…
〈寒林の奥にありたる西の空/鷲谷七菜子〉西は仏教的な西方浄土だろう、そこへ辿り着くには寒林をぬけるしかない。明暗の対照がある。〈流し雛に水どこまでもうす明り/鷲谷七菜子〉鮮烈な「うす明り」の表現。〈孕み鹿のうなづき寄るも重まぶた/鷲谷七菜…
〈病棟に孤独の落ちてゐた朝はいちまいの楓のやうに拾ひぬ/渡辺松男〉孤独→楓の転換が鮮やか。〈生は死のへうめんであるあかゆさにけふ青年は遠泳したり/渡辺松男〉遠泳しているかのような息継ぎのような生として捉えた。〈こゑのうらこゑのおもてとひるが…
〈白雲がとてもまぶしい春の日にあなたと椅子を組み立ててゆく/江戸雪〉組み立てるのはなんでもいいけれど、椅子なのがいい。居場所ができるから。〈ストライプの日傘をさして川へゆくときどき風が胸をぬけつつ/江戸雪〉大阪の運河と少し日の強すぎる町並…
〈癌のなかにゐずまひ正してきみはありゐずまひはかなし杏子のかをり/渡辺松男〉医師は杏林ともいう。最後の「杏子のかをり」の調べにクラっと来る。〈死後の永さをおもひはじめてゐるわれはまいにち桜はらはらとちる/渡辺松男〉数十億年の孤独に。〈黒煙…
篠弘選〈面接に五人の子をもつ女採りき日々行列のできる食堂/鈴木圭子〉女にひととルビ、もりもり食べたくなる食堂だ。伊藤一彦選〈風船が部屋の真ん中漂って答えが出ない私に似てる/村山仁美〉映画の気球クラブみたいな、夢いっぱいで不安で情景。〈街角…
中日歌壇 島田修三選第一席〈モノクロの家に突然色が付く子の恋人の花のスカート/二ツ木美智子〉結婚とかではなく、若い恋人なのだと思う。〈深みゆく秋のあしたの合はせ鏡私の知らない私を映す/冬森すはん〉「これは誰?」とまでは行かなくても変わりゆく…
週刊金曜日の金曜俳句に〈短調の隣より漏る室の花/以太〉が載っていた日、『雨る』のⅠを読む。〈ゆふかげはわが身を透かし地にあれば枯蟷螂にすぎぬたましひ/渡辺松男〉枯蟷螂に自分を仮託する、その自分、ことわが身は夕影に透けているという。危うい自己…
加藤治郎選〈みかん箱がちょこんと乗ってる室外機長くて楽しい冬のはじまり/おでかけサキ〉冬支度だろう。どこのみかんか気になるのは浜松市民だから。〈過去からの欠片が集う蚤の市 モザイク壁画のレーニンのそば/人子一人〉ロシアの景が珍しい。篠弘選〈…
中日歌壇 島田修三選第一席〈ひとところ川面が光る秋の午後さびしき者はここへ来よとぞ/三井久美〉川面の光を声と読む。第二席〈みずからを鼓舞して生きんSLよ汗敢えて乗務の若き日ありき/村松敏夫〉浜松市より、天竜浜名湖鉄道かなと思う。〈木に登る朝…
米川千嘉子選〈ファブリーズせつせと噴霧し禊する平成生まれのあつけらかーん/花嶋八重子〉あつけらかーんが脳に残る。〈つむじ風になればよかった囚われて埋められるならビルのすき間に/横田博行〉なりたいもの、埋められる場所がおもしろい。人間でなけ…
島田修三選第一席〈小春日を「老婦人の夏」と呼ぶ国にアンゲラ・メルケル凜凜と生きたり/山守美紀〉ドイツ語を勉強したくなる。第二席〈風やみてためらひのなき書き順のやうに来たりぬけふの団円/冬森すはん〉硬筆ではなく毛筆。〈音だけをたよりに捜さん…
〈約束のことごとく葉を落とし終え樹は重心を地下に還せり/渡辺松男〉落葉で樹の重心が変わるという発想が哀しくも冬めく。〈アリョーシャよ 黙って突っ立っていると万の戦ぎの樹に劣るのだ/渡辺松男〉人が木より勝るとしたら話し動くがゆえに。〈捨てられ…
島田修三選第二席〈投獄のジャーナリスト二百人超黒を黒とは言えない世界/滝上裕幸〉自然状態か国家状態か。〈抑え込み絞めて固めて十文字やっと縛ったダンボールだが/柴田きみ子〉ボワっと弾けた、のだろう。〈くい込みて抜けぬ包丁人質に南瓜野郎を湯浴…
巨大な箱に入っていた『ひかりの針がうたふ』を読む。〈しばらくを付ききてふいに逸れてゆくカモメをわれの未来と思ふ/黒瀬珂瀾〉今の自分という本質がもしあるならそれを逸れてゆく実存がカモメということか。〈海のいづこも世界の喉と思ふとき雲量8は7…
〈セーラー服色のチューブを探してる一気に塗ってしまいたくなり/立花開〉セーラー服を着ていることの煩わしさなどがあるのだろう、だから一気に片付けたい。〈セーラーを脱いだら白い胸にある静かな風をゆるす抜け道/立花開〉も。谷間だろうか。風音が爽…
図書館俳句ポスト八月の題「天の川」で〈へその緒の桐箱白し天の川/以太〉が特選だった週の中日新聞より。 中日歌壇 島田修三選第二席〈風の道に立てられてゐき洗ひ張り板路地の記憶に母が住みゐる/冬森すはん〉かなり字余りなのか。でも路地の風景が鮮や…
島田修三選第二席〈背後から頭上を越えて青空の高みへヘリが吸い込まれてゆく/今井久美子〉スパイ映画の一場面のようだ。第三席〈うろこ雲リヤウインドに映しつつ前車は秋を背負って走る/安江弘行〉前車が秋を背負うなら気づかぬうちに我が車も背負わせて…
島田修三選〈乗り物の名前を問えばバス、電車、肩車と答う認知症の夫/鈴木千慧子〉肩車は子供の乗り物であり、すでに夫の心は幼児に返っているのか。〈案外と清女は喜ぶやも知れず枕草子のオンライン授業/増崎秀敏〉あいつなら、ね。小島ゆかり選第一席〈…
島田修三選第三席〈無いはずの鍵はいつでもここに有り有るはずの庭は静かに朽ちる/倉知典子〉家は売るはず、庭は手元に残しておくはずだったのだろう。ままならないのが人生。〈凡庸な自分の歌にへこむ日はシンクを磨きやかんも磨く/二ツ木美智子〉凡庸こ…
島田修三選第一席〈就職の決まらぬ悪夢に目が覚めて年金制度暮らしの我と気がつく/坂神誠〉失業時代かもしれない。金が途切れるかもしれないという恐怖が日常生活者にはある。〈旅姿した牧水が徳利さげまだ佇っているこんな山路に/梶村京子〉これは門谷の…
島田修三選第一席〈「八十歳にもう手が届く」とつぶやけば「長い手だね」と娘にさすられる/塩谷美穂子〉八十歳にはちじゅうとルビ。「手が届く」の意味を二重にとるおもしろさ。作中主体の立ち位置を考えさせられる。〈鍵盤の黒が少ない朝礼の横一列のマス…