2020-07-01から1ヶ月間の記事一覧
現代俳句協会青年部による「翌檜篇」(20)『現代俳句』令和二年八月号を読む。「でも」から〈機影また雲間に消ゆる夏野かな/内野義悠〉「機影また」から夏野を覆う空の高さと大きさとを想像させる。その空や雲を含めて巨大な「夏野」であるかのような連…
また景色を見たくて『千夜曳獏』を読む。〈でもそれが始まりだった。檸檬水、コップは水の鱗をまとい/千種創一〉「水の鱗」は想像への衣として。〈あらすじに全てが書いてあるような雨の林を小走りでゆく/千種創一〉一が千であり千が一となるような、連続…
浜松市の夜の街から三十人の感染者が出た日、『文藝誌オートカクテル2020』収録の連作「たわむれ」を読む。与えられた生とは理不尽の別の名なのかを考えながら。〈ひとの頬ほどに眩しく明日には腐っていたかもしれない桃だ/馬場めぐみ〉「明日には腐ってい…
もし世が世なら東京オリンピックの開会式がある日、『耳ふたひら』を読む。〈都市の力見せつけているキオスクの朝刊各紙の厚き林立/松村由利子〉田舎のコンビニには都市の駅のキオスクほど朝刊を揃えていない、キオスクの朝刊は都市の兵站力を見せつけてい…
毎朝毎夕兜虫の雄か雌かと鉢合わせる日々に池田澄子『此処』を読む。〈花冷えのこころが体を嫌がるの/池田澄子〉では気温の低下による鬱気な心を主体とさせ、〈花ふぶき体がこころを捨てたがる/池田澄子〉では風が体を主体とさせる。〈満潮の河の厚みと百…
湯豆腐とヨーグルト、遺句集として読む。〈一月の茶碗の中の山河かな/北大路翼〉一月の茶碗の中には一月の川や一月の谷が収められている。趣味人の模型のような造形、さまざまな角度から見る。〈湯煙は常に流れて寒桜/北大路翼〉冬風の吹く温泉街のさりげ…
続く梅雨に「凍港」部分を読む。〈鏡中に西日射し入る夕立あと/山口誓子〉西日と鏡に照り返された西日とで二倍明るさを強調された夕立あと。〈鱚釣りや靑垣なせる陸の山/山口誓子〉陸くが、鱚釣りなのに周囲を取り巻く山々へ着目させる景作り。〈競漕の空…
筑後川が氾濫した日、「幻燈」部分を読む。〈少女が黒いオルガンであった日の声を探す/林田紀音夫〉女の子は黒いオルガンとともに歌っていた時代を振り返っている。その声の思い出とともに、思い出のありかを探している。〈体温を風にさらわれ親身な河口/…
かりん糖を貰った日、『明石海人歌集』を読む。〈とりとめて書き遺すこともなかりけむ手帖にうすき鉛筆のあと/明石海人〉は〈鉛筆の遺書ならば忘れ易からむ/林田紀音夫〉と並べられる。「うすき鉛筆」は世への未練か。〈大楓子油注射のときを近づきて口覆…
梅雨、流れ着くように届いた『bouquet, 2020』稀風社が郵便受箱に立っていた日、連作「地図のある小説」を読む。〈地図のある小説の良さ この世界も地図のある小説であればいい/鈴木ちはね〉地図のある小説というとファンタジー小説がぱっと思いつく。いま…
牛乳を飲んだ日、『宮柊二歌集』を読む。〈かうかうと仕事場は灯の明くして夜深き街を旋風過ぎたり/宮柊二〉夜業のいつ果てるともない不安、心の荒涼。〈ちりぢりに空の高処をひかりつつ小鳥わたれり山は寒しも/宮柊二〉失意の地を睥睨するかのような小さ…
枇杷が発芽していたのを知った日、『みだれ髪』を読む。〈その子二十櫛にながるる黒髪のおごりの春のうつくしきかな/与謝野晶子〉いまの二十歳は子どもだけれど明治期の二十歳は年増である。その子は令和期では二十代なかばから三十歳までの感覚だろうか、…