以太以外

言葉の誤配者、俳句と詩歌と届けられない宛所

古本

残念だと、ちゃんと思える。浜松駅の近く、旧東海道沿いにゆりの木通り商店街がある。そこで五月十九日に第二回浜松古本市が開催される。私は以外社を屋号として掲げ、素人古本屋として参加する。第一回浜松古本市は去年十月に鴨江アートセンターという屋内で開催され、第二回は商店街という屋外。午前九時にスーパーカブで乗りつけ、古本二十六冊を搬入する。ターポリンの迷彩シートを広げ、その上に古本を並べる。それから情報カードに宣伝文句と値段を書いて、それぞれの古本の頁に挟む。午前十時、二十店が準備を整え浜松古本市が始まる。宅建士セットを求めた女性を皮切りに、句集やエッセイや哲学書や小説などが次々と人手に渡る。『蠶體解剖生理敎科書』という痕跡本も女性が持ち去る。西遠女子学園の生徒が最果タヒの詩集『死んでしまう系のぼくらに』を鞄に入れて持ち帰ったときは、河合塾への通学途上にある第二回浜松古本市の立地におもしろさを感じた。計十冊の古本を頒けた十一時半、黒い雲が浜松市のまちなかへ迫る。雨が降り出す。私は迷彩シートを本の上に被せ、黒板とキッチンに避難する。いくつかの店はすでに撤収する。私は雨雲レーダーを睨みながらカレーライスを食べる。しばらくして雨が止む。私は迷彩シートを広げ直し、再び本を並べる。すでに三店しか残っていない。十二時半にはすっかり晴れる。開始から計二十一冊頒けたとき、実行委員会から正式に中止が告げられる。古本が雨で濡れてしまった店があり、雨はいつまた降るか分からない。雨天中止となり、残念だと、ちゃんと思える。迷いのない態度で、実行委員会の面々はきびきびと跡片付けをする。段ボール箱へ残った古本五冊を入れて、私は会場を去る。

古本の彩りとして若葉雨 以太


f:id:onaiita:20190519183551j:image

夢記

早く起き過ぎて薄暮のなか自転車を砂利の敷かれた旗竿地に停める。旗竿地を出ると二人の同僚らしき人物が肩を抱き合い薄暮の道を歩いている。場面が変わり、屋内で食のイベントが開催されている。十二歳くらいの男の子が椅子に座ってチョコレートアイスを食べている。その妹であろう七歳の女の子もチョコレートアイスを買い食べる。私もチョコレートアイスを買い食べるけれど「そんなにあるからいいでしょ」と言われ女の子に横取りされる。ロの字形に鮮魚店精肉店が十二ほど市場のように集まり、斜めに立てかけた鉄板でソーセージと野菜を焼いたり、塩魚や魚の干物を焼いたり、肉塊や貝を焼いたりしている。市場の脇で番をしている妻に「何か食べるか」と訊くと「いらない」と応える。また見に行くと十二ほどあった店はほとんど撤収してソーセージ数本と魚の干物ひと切れしか残っていない。時計を見ると十一時。早く起きたけれど二度寝して遅刻だと思い、慌ててスマートフォンを立ち上げようとしても画面が黒い。やっと起動しても液晶画面がずれており、端に黄色い線が見えるくらい。やっと機能しても見知らぬアプリケーションのアイコンが散らばっている。

肉魚貝焼き尽くせ蓮浮葉 以太

麦酒

「麦酒は売りません」とその人は言う。愛知県新城市鳳来寺の表参道脇に旧門谷小学校という廃校がある。その廃校でカフェ爾今主催の「スーク緑の十日間」というイベントが開催されている。スークではパンやフライパンが売られ、音楽が奏でられ、コーヒーが淹れられ、ヌメ革が彫られ、肉が焼かれ、子供が表参道沿いの音為川まで下りて川遊びをする。私は五月四日にスークを訪れる。そして、地鶏を扱う焼き鳥屋で葱間を三本注文して焼き上がるのを待つ。すると子連れの男が来て、焼き鳥屋に「麦酒を下さい」とテント奥の麦酒サーバーを指して言う。焼き鳥屋は「申し訳ありません。この麦酒は売っていないんですよ」と応える。子連れの男は「でも、それ普通の麦酒じゃないんですよね」と言う。子連れ男は事情通らしい。焼き鳥屋は「はい。掛川の地麦酒です」と言う。子連れの男の喉はおおっと唸る。そして「いま飲みたいんですれけど、駄目ですか」と言う。焼き鳥屋は「今回このイベントに新規出店している方がお酒を扱ってらっしゃるんですね。なので麦酒は売りません」と言う。焼き鳥屋のこの言葉で、男は子を連れて引き下がる。葱間は壺のタレにたっぷりと漬けられる。炭から濛々と煙が上がる。

胸奥に麦酒を隠す男かな 以太


f:id:onaiita:20190506121422j:image

 

 

夢記

歓楽街、職場の話し好きなMさんがいて蘊蓄めいたことを話している。カラオケルームのような橙色の待合室でパイプ椅子に腰掛けて座っている。隣は革張りのソファ。北千住のような狭く湾曲した商店街の奥から鼓笛隊とともに五色の女たちがやって来る。緑色の女は皺だらけの腕をしている。

美少女に白髪が生える春の虹 以太

夢記

その家の敷地は灰色の砂利で敷き詰められている。五箇所ほど矩形に砂利山が築かれ、矩形の鉄檻が載せられている。鉄檻は平行に並べられている。鉄檻のなかには黒白の動物が入れられている。黒白の豚、黒白の獏、黒白の馬、黒白の猫、黒白の熊など。帰ったあとでその家を訪れたときに何かを失くしたような気がしている。再訪すると、或る一つの鉄檻のなかに黒色の犬が入れられていて、そいつが失くしたものだと気づく。

黒犬はとぼとぼ歩く春の雨 以太

夢記

何かを誤配した罪で懲役百四十七年の刑に処せられる。場面が切りかわり、妻と友人と三人で越南のような暗い屋台街を歩く。間口が狭く、卓が二脚だけ通りにはみ出している店で卓に着き、飲む。場面が切りかわり、飛行機に乗る。一度離陸しようとするけれど右翼が折れた気がする。機長はもう一度離陸しようとするけれど離陸できない。乾燥地帯のくねくねした道を飛行機が進む。視点が飛行機の外からの映像に切りかわると飛行機は、青い線の入った列車に変わっている。駅に着く。改札口を出ると屋台街、喉が渇いたので先程の店でジュースを買う。

爆弾の母よ国土は花吹雪 以太

夢記

立体的なカーナビゲーションの映像。山奥にほぼ円形の水辺があり、車を停めて礫を踏みながら訪れる。円形のなかを蛇行する川が美しく氾濫してのち水がひくと、礫の上に銀色に輝く川蝦や細長い魚が跳ねている。水辺の外れ森林のなかに山道が通っていて、山道が分岐する地点に石碑が建てられている。

青空を飲みつくしたら春の魚

夢記

学校の教室である。体育の授業が雨で中止になり、自習時間に変わる。教室のテレビで私が持ってきた邦画をみんなで観る。思いの外好評を得て教室は熱狂する。次の授業のためか、廊下には他の生徒や教師が日だまりのなか日焼けした肌で待機している。最後に四つほどアンケートを採る。黒板の隅へTに白墨でアンケート結果を書いてもらう。「次の自習時間があれば映画の続きを観たい」「また機会があれば違う映画を観たい」には教室の殆どの人が挙手した。しかしTはその結果を黒板消しで消してしまう。

卒業や古い映画の手書き文字 以太

夢記

配達すべき郵便物を区分棚に残し、前面が格子状の硝子で覆われた大きな建築物を出る。裏山のようななだらかな丘、濃い緑の亜熱帯じみた植物のなかに別館のような煉瓦造りの建物があり、道に面した壁が大きな一枚の硝子板になって開かれている。外壁の煉瓦は濡れている。硝子板のある部屋は分娩室であり、そこで妻が第二子を出産する。

下萌のなか産声のひとかけら 以太