麦芽糖・序
今年から、われらが『麦』は1・2月合併号となり、同人にも1冊しか郵送されなくなった。麦の存在感を出すためと会の今後のため、そして自らのために『麦』を読み尽くそうと考え、この麦芽糖をはじめる。読むのはおもに『麦』表紙2・特別作品・踏生集など選の入っていない作品からである。もちろん例外はときどきある、この世のあらゆる約束と同じようにね。
麦2025年1・2月号
- 悴みて白紙の遠くまで見える/対馬康子、手の感覚と視覚を並列させたおかしさ。
- 旧臘や旅にもレジの列並ぶ/対馬康子、旧臘は昨年師走のこと。旧年-新年、待機列-旅という秘められた構造が見える。
- 弁当の真っ赤な小梅蝶の昼/村田珠子、核融合のように凝縮された小梅から蝶の昼のあいまいな広さへの落差にくらくらしそうだった。
- 秋の駅ペンギンの群れ青を待つ/石山夏山、「秋の駅ペンギンの群れ/青を待つ」と切った。駅ペンギンは言わずと知れたSuicaのペンギンであり、それらの群れが青信号を待つという駅→路上の飛躍と隠喩は強い。
- 虫籠に逃げる準備はできている/船場こけし、これ虫籠のなかにいて鍵がおろされているんですよ、それでこう言っているんですよ。
- 目の奥の砂漠を渡る秋湿り/佃壮夫、ぎょっとした、砂漠と湿りを衝突させた心意気に。
- 水色の水ぐすり飲む虫の闇/平山道子、「水色の水ぐすり」という水のつらなりが怪しい。
- 鍋底の焦げ目そのまま敗戦日/斉田仁、いろいろな焦げを思う。
- 燕の子生死不明のまま捜す/佐々木洋子、壮絶な句だ。
- 赤い羽根つけて電車が浮力もつ/森田千技子、純粋な希求力があると電車は浮く、銀河鉄道みたいに。
- ざっくりと夢ざっくりと梨の芯/田中朋子、夢の記憶と梨の芯の味は類似している。
- 綻びのきれいな縫い目大花野/久野眞喜恵、綻びがあるのは大花野ではないとわかっているところがよい。
- いつの日もあなたの味方栗ごはん/山崎みどり、こんな給食のおばちゃんがいい。
- 聴力と骨密度良し秋晴れる/黒田多實生、のほほんな感じがこのましい。
- 姉ありて袴田翁に秋の空/中村せつ、ときどき駅前で見る。
- コスモスに脚のはなしは禁句です/足立町子、「脚のはなし」気になる。
- 秋晴の琵琶湖を釣っていると言う/鋤柄杉太、句柄がおおきいなあ。
- 囮かな血中の記憶よみがえる/野川京、上五で「かな」で意表を突かれる。血中ということは食べたのかな。
- 本来のゆるいテンポの残る虫/斉藤修司、こども返りみたいな。
- 爽やかに一つの窓となりうたう/杉本青三郎、「一つの窓」が示唆めいている。