Mastodon

以太以外

病名は人間性や夕野分 以太

2020-06-01から1ヶ月間の記事一覧

『若山牧水歌集』岩波文庫

「死か芸術か」以降の部分をざっと読む。〈浪、浪、浪、沖に居る浪、岸の浪、やよ待てわれも山降りて行かむ/若山牧水〉山道をおりて開けた場所に出て、どうっと海が広がったのだろう。「、」は寄せて返す浪の間だ。〈なにゆゑに旅に出づるや、なにゆゑに旅…

檜葉記(一)

伊那から帰った日、現代俳句協会青年部による「翌檜篇」(19)『現代俳句』令和二年七月号を読む。「目印」より〈厚あげの断面ほどの冬銀河/珠凪夕波〉厚あげという厨のなかの卑近と銀河という宇宙規模の広大さを並べたところに興が起こる。厚あげの白さ…

「独り歌へる」「別離」「路上」『若山牧水歌集』岩波文庫

諏訪大社上社本宮と神長官守矢史料館うらのミシャグジ社を訪れた日、「独り歌へる」「別離」「路上」部分を読む。〈角もなく眼なき数十の黒牛にまじりて行かばやゝなぐさまむ/若山牧水〉あるべきもののない動物と行く寓話。漂泊の究極形だろう。〈玻璃戸漏…

「海の声」『若山牧水歌集』岩波文庫

鳶の飛ぶ諏訪湖を見ながら「海の声」部分を読む。〈白鳥は哀しからずや空の青海のあをにも染まずただよふ/若山牧水〉「青」と「あを」を書き分けたのは空と海の色の違いによるものだろうけれど、やや理屈っぽいかもしれない。俳句なら同じ漢字を使う。〈海…

玉葉和歌集の冬

都田図書館へ行ってみたくなった日、「冬」部分を読む。〈おのづから音する人もなかりけり山めぐりする時雨ならでは/西行法師〉さびしさのはてなむ国ぞ。〈神無月時雨飛び分け行雁の翼吹き干す峰の木枯らし/後鳥羽院御製〉「翼(を)吹き干す」の技巧は写…

玉葉和歌集の秋

若山牧水の「梅雨紀行」を読んだ日、「秋」部分を読む。〈尾花のみ庭になびきて秋風の響きは峰の梢にぞ聞/永福門院〉庭という近景と峰の梢という遠景とを同時に見て、聴いている。この近景と遠景を併置するのは〈我が門の稲葉の風におどろけば霧のあなたに…

玉葉和歌集の春

「春」部分を読む。〈木々の心花近からし昨日今日世はうす曇り春雨の降る/永福門院〉木々の花咲かんとする心を春雨に仮託している。そこに、作者の心もまた入りこむ。〈折りかざす道行き人のけしきにて世はみな花の盛をぞしる/永福門院〉「折りかざす」は…

二つの読層

セブンイレブン静岡東名インター店だった。浜松へ帰る水分を確保するべく伊藤園の濃い茶を手にとるとこんな句が第三十回伊藤園新俳句大賞都道府県賞として掲載されていた。 化学式雪解けの日はまだ遠い/岡元愛瑠 和歌山県賞だったのだろう。ある読層では、…

玉葉和歌集の夏と旅

叙景に徹すれば詩は永遠になると思い、『玉葉和歌集』の夏歌を読む。〈を山田に見ゆる緑の一村やまだ取り分けぬ早苗なるらん/前右近大将家教〉起伏のある緑の喜び。〈五月雨は晴れんとやする山の端にかゝれる雲の薄くなり行/今上御製〉雲と光が山の端をめ…

垂直/浅川芳直

関西現代俳句協会青年部招待作品「垂直」を読む。〈はめごろし窓へかたまる春の蠅/浅川芳直〉はめ殺しという建具の名には猥雑さと残酷さが秘められている。「春の蝿」とは言え蝿の密集はその名が秘めたものを滾らせる。いや、「春の」だからこそはめ殺しと…

「風蝕」『林田紀音夫全句集』富士見書房

句日記を寄稿したZINE「今だからvol.1」(ぽんつく堂)が届いた日、「風蝕」部分を読む。〈月光のふたたびおのが手に復る/林田紀音夫〉この前は月面にいて月光を手にかざしたの。〈松の花水より速きものを見ず/林田紀音夫〉水辺、風のない日に咲いた松の花…