以太以外

蒼褪めた巨漢は笑う水澄んで 以太

「バリケード・一九六六年二月」『福島泰樹全歌集』河出書房新社

天竜川河口付近、太平洋を前に、強い北風で子が泣く。そんななか『福島泰樹全歌集』の「バリケード・一九六六年二月」部分を読む。〈一隊をみおろす 夜の構内に三〇〇〇の髪戦ぎてやまぬ/福島泰樹〉戦闘前夜の緊張、〈検挙されなかったことを不覚とし十指もろとも凍る手袋/福島泰樹〉悲愴へ迸る、〈奮迅したる友へ差入れなにもなしポッケの底のライオン歯磨/福島泰樹〉必需品だけを持ち街にある。〈あまつさえ時雨はさびしきものなるをコーヒー店に待機している/福島泰樹〉闘争のさなかコーヒー店に待機する、というリアリズム。〈はいりきてレイン・コートを脱ぎ捨てしわかものの髪もうかわくまい/福島泰樹〉「もうかわくまい」とは永遠のわかもとなるゆえに。〈飛沫するレイン・コートを纏いしは無残なりわが暁の帰路/福島泰樹〉痛いほどの敗北感をレインコートの重みに変えて。

五月あまりに豊饒なるをわがためにひとり少女が切りし黒髪 福島泰樹