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以太以外

国は夜ずっと流れているプール 以太

2020-01-01から1年間の記事一覧

斉藤斎藤『渡辺のわたし』港の人

中日歌壇と中日俳壇の年間賞が発表になった日、『渡辺のわたし』を読む。〈隣人のたばこのけむり 非常時にはここを破って避難するのだ/斉藤斎藤〉台風でも破れちゃう避難用扉。〈池尻のスターバックスのテラスにひとり・ひとりの小雨決行/斉藤斎藤〉池袋で…

中日歌壇中日俳壇2020年12月20日

小島ゆかり選は浜松市が多い。林建生さんが〈お互いに理解できぬと理解した夜空はきれい星は流れる/林建生〉〈白は白黒も時には白となり玉入れみたいにならぬ世の中/林建生〉とリフレインの皮肉が効いた短歌が一首ずつ入選している。島田修三選第一席〈給…

山崎方代『こんなもんじゃ』文藝春秋

「文芸磐田」第46号の詩部門で第二位と知らされた日、『こんなもんじゃ』を読む。〈机の上に風呂敷包みが置いてある風呂敷包みに過ぎなかったよ/山崎方代〉期待はしていた。〈親子心中の小さな記事をくりぬいて今日の日記を埋めておきたり/山崎方代〉小さ…

中日歌壇中日俳壇2020年12月13日

中日俳壇の長谷川久々子選にて〈浮寝鳥ぶつかりあつて人歩く/以太〉が入選していた。島田修三選第三席〈外国の力士の本名番付表に長きカタカナ呪文のやうなり/山下豊子〉見慣れない外国語を呪文と読む発想。〈小気味よく絹糸はじき縁側に孫の晴れ着の丈を…

木下龍也『つむじ風、ここにあります』書肆侃侃房

NHK俳句短歌全国大会から内定通知が来た日、『つむじ風、ここにあります』を読む。〈公園の鉄の部分は昨晩の雨をゆっくり地面に降らす/木下龍也〉そういうことがあるかもしれないと思わせる。「降らせる」が巧み。〈B型の不足を叫ぶ青年が血のいれものとし…

中日歌壇2020年12月6日

NHK短歌の日、竹取りの翁と羽田空港の落差がおもしろい島田修三選第一席〈竹取りの翁になりて光る孫羽田空港に今見つけたり/豊田芙美子〉と角ばった頬骨を思わせる第三席〈まだ渋の抜けぬ柿の実を思はしむ青年の主張すがしみて聴く/久米すゑ子〉は、よ…

大口玲子『トリサンナイタ』角川書店

サンタクロースへ手紙が届かなかった日、『トリサンナイタ』を読む。〈筆先を水で洗へばおとなしく文字とならざる墨流れたり/大口玲子〉「文字とならざる墨」という起こらなかった未来で規定されるものの描写に興味がある。〈イースター・エッグを包む薄紙…

事任八幡宮のことどひの里

事任八幡宮の裏手にある「こととひの里」へおりた。

『東北大短歌 第6号』

事任八幡宮へ行く日、北大短歌でも東大短歌でもない東北大短歌を読む。〈魚ではないもののため海水に近しい味でこぼれる涙/青木美樺〉魚と海水は実景としてはないけれど感情の基底に流れている。〈かんたんにこわせるからだ薬局のまあるい窓に月を見ていた…

今橋愛『O脚の膝』北溟社

浜松市民文芸賞受賞者で競うBUNBUNはままつエッセイの部で入選し「浜松百撰」十二月号に「がんばる坂の家」が掲載された日、『O脚の膝』を読む。〈日本語にうえていますと手紙来て/日本語いがいの空は広そう/今橋愛〉「うえています」に羨望を感じている…

中日歌壇2020年11月29日

通読していると梶村京子氏、棚橋義弘氏、豊島芙美子氏などをお見かけして常連の方なのでは、と思う。島田修三選第二席〈枝つきのみかんぶらさげ姉来たる遠州弁をころがし姦し/小桜一晴〉青島みかんかな。〈降り来て手に乗りそうな金星を目指して歩む朝冷え…

川野芽生『Lilith』書肆侃侃房

ある晴れた日、「Lilith」を読む。〈夜の庭に茉莉花、とほき海に泡 ひとはひとりで溺れゆくもの/川野芽生〉近くの白い茉莉花に遠い海音を聴くかのような思考がある。溺れるのは誰かの言葉ではなく自分のそんな思考ゆえに。〈しろへびを一度見しゆゑわたくし…

初谷むい『花は泡、そこにいたって会いたいよ』書肆侃侃房

小林一茶百九十四回忌全国俳句大会高校生大学生部門で〈雲影は山までつづく夏休/以太〉が佳作と連絡のあった日、『花は泡、そこにいたって会いたいよ』を読む。〈夜汽車 ふみきりのような温もりでだめって言って抱きしめている/初谷むい〉「夜汽車 ふ」で…

中日歌壇2020年11月22日

野田秀樹の「赤鬼」を観終わった。島田修三選第一席〈この秋の一番の濃き鱗雲 雲の余白に靴下を干す/大場米子〉「雲の余白」は空ばかりではなく地上もそうだと思わせる。第二席と第三席が突然音楽で「曲名」シリーズ〈断捨離のゴミの中よりオルゴールの「く…

中日歌壇2020年11月15日

杏林堂で産まれて三ヶ月もない乳児を前抱きにしたお母さんが丹念にカートを消毒していた。島田修三選第二席〈横町のちひさき空のおぼろ月ふふめば甘くほろほろくづる/西脇祥貴〉おぼろ大根を思う。〈カレーには外米が合うパサパサの母のカレーが食べたくな…

奥田亡羊『男歌男』短歌研究社

淡い日、『男歌男』を読む。〈補助輪をはずせば赤き自転車の少女にわかに女めきたる/奥田亡羊〉補助輪を外すと均衡を保つため姿勢がよくなる。〈流木の流れぬときも流木と呼ばれ半ばを埋もれてあり/奥田亡羊〉流人めく扱いの流木。「流れぬときも流木と呼…

石井英彦『炎』文學の森

謹呈された『炎』を読む。〈白い電車が梅雨の山へ入ってゆく/石井英彦〉ただならぬ電車に違いない。死者を乗せるような。〈化物の国をやさしく雲の虹/石井英彦〉「化物の国」と「やさしく」は人柄のあたたかさ。〈たましいとこころ和解す瓜曲る/石井英彦…

中日歌壇2020年11月8日

昨夜は〈母は云う私の生まれた経緯を林檎の赤を磨きつづけて/近藤尚文〉や〈ぼくにはぼくきみにはきみの名があって汐風香るその町へゆく/近藤尚文〉や〈鉄橋の真下でねむる冬の犬ただ星くずに降られぬように/近藤尚文〉といった輝かしい歌群を読み、今ま…

郵便配達用語集

郵便局で働く郵便配達員が仕事で使う専門用語や略語や隠語を一覧にしました。新人教育に使えます。

第三十八回短詩形文学献詠祭

伊勢国一宮椿大神社の別宮椿岸神社にて短歌と俳句の短詩形文学献詠祭が催され、参加した。 東名と伊勢湾岸と新名阪を駆け抜け新設の鈴鹿インターチェンジをおりた。浜松市から四時間弱で茶畑に辿り着いた。鈴鹿山脈の麓は伊勢茶の産地で、新名阪の高架から海…

中日歌壇の十代

秋の中日歌壇で酒井拓夢氏の名を覚えた。まず2020年9月6日の小島ゆかり選第二席にその名を見つけた。〈生温い夏の夜からちぎれ来た小さき闇の如き黒猫/酒井拓夢〉評の「驚くべき十代の作者」には驚かなかったけれど、黒猫の流体性を「ちぎれ来た小さき闇」…

中日歌壇2020年11月1日

地理的な興味で、金沢市・磐田市・高山市・湖西市・伊賀市などの文字が中日歌壇に多く並ぶと嬉しい。島田修三選第一席〈面倒な話を持ち出すとき夫は一般論だと前置きをする/森田ちえ子〉私も、そう。君のことを言っているのではない。〈「ごめんね」を朝言…

檜葉記(四)

第38回兜太現代俳句新人賞で私の「人曲」が最終候補十二作品に残り最終投票で五位だったと知った日、東海地区現代俳句協会青年部選の「翌檜篇」(23)『現代俳句』令和二年十一月号を読む。〈ため息の色と思へり虞美人草/村山恭子〉ちょっと情念の濃いため…

山田航『さよならバグ・チルドレン』ふらんす堂

浜松百撰十二月号にエッセイが載ると通知があった日、『さよならバグ・チルドレン』を読む。〈調律師のゆたかなる髪ふるへをり白鍵が鳴りやみてもしばし/山田航〉コンサートではない点がポイントだろう。個人宅であればたぶん無人だろうし、コンサートホー…

中日歌壇2020年10月25日

この日は浜松市が三人、静岡県吉田町と飛騨市と桑名市が一人ずつ、他は愛知県。島田修三選にウーバーイーツ短歌が採られていた。島田修三選〈静かなる涼夜を列車は走りゆく君住む街へ繋がらん音/川村美恵〉空気が澄んで電車の音が遠くまで聴こえる夜。「繋…

榊原紘『悪友』書肆侃侃房

椿大神社の第三十八回短詩形文学献詠祭の結果を知った日、『悪友』を読む。〈店名の由来はスペルミスらしい指先だけをおしぼりで拭く/榊原紘〉おしぼりで丹念に手を拭くことはない。指先だけと鼻とかを拭く、スペルミスするようなオシャレな店でも。〈舌と…

雪舟えま『たんぽるぽる』短歌研究社

そばぼうろの連食性に気づいた日、『たんぽるぽる』を読む。〈美容師の指からこの星にはない海の香気が舞い降りてくる/雪舟えま〉「この星にはない」が奇跡のような修辞として舞い降りる。〈恋びとのうそと故郷の羊肉が星の散らばる新居に届く/雪舟えま〉…

中日歌壇2020年10月18日

中日歌壇*1は愛知歌壇と言ってもいいくらい愛知県の入選者が多い。中日新聞の購読者も投稿者も愛知県が多いからだろう。もちろん静岡県・岐阜県・三重県・石川県*2の入選者もいる。理論上は長野県・和歌山県・富山県*3・福井県・滋賀県の入選者もいてもおか…

ジェンダーフリー短歌

・に丸つけてみる男でも女でもなく私はわたし/川津寧々*1 迷わず女に○をする無意識に傷つけたこともある手だろう/渡つぐみ*2 二首とも履歴書などにある「男・女」の選択欄についての短歌、「・」はナカグロとルビ。川津は二項対立に反抗し、渡は二項対立に…

小池光『静物』砂子屋書房

とてつもない日、『静物』を読む。〈ひとたばの芍薬が網だなにあり 下なる人をふかくねむらす/小池光〉網棚の芍薬がその下にいる人の眠りに作用していると思わされてしまう。〈チェルノブイリ「石棺」の壁をつたひゆく蔦の青葉よ 青の根源/小池光〉ウラン…