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以太以外

病名は人間性や夕野分 以太

鴇田智哉『こゑふたつ』木の山文庫

東三河で鴇田智哉『こゑふたつ』木の山文庫を読む。〈朽ちてゆく舟あり合歓の花が咲き/鴇田智哉〉眠りと朽ちの淡い共鳴、伊勢の小漁港であり〈いくつもの船がこはれて春をはる/今井杏太郎〉なのだろう。〈たんぽぽを摘んで頭がかるくなり/鴇田智哉〉摘んで立ち上がった、立ちくらみのような脳内血管の血流の変化をよく捉える。〈砂の音してゆふだちのはじまりぬ/鴇田智哉〉雨滴ではなくその行き着く果てに着目する。〈障子から風の離るる音のあり/鴇田智哉〉風の来るのと離れるのはほぼ同時であり、その一方に注意する。〈かぜを引く一人の陸のひろがりに/鴇田智哉〉風邪で身体は敏感に捉える、空間を表すときに「陸のひろがり」と言う。〈歯を磨く音の聞ゆる彼岸かな/鴇田智哉〉窓を開け放つやわらかな街の季節に。〈はづしたるマスクに鳥の匂ひあり/鴇田智哉〉自分では気づかなかった自分のうちなる鳥の部分について。鳥インフルエンザからの連想か。

電球の中とは寒きところかな 鴇田智哉


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