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以太以外

病名は人間性や夕野分 以太

2020-08-01から1ヶ月間の記事一覧

檜葉記(三)

現代俳句協会関西青年部による「翌檜篇」(21)『現代俳句』令和二年九月号を読む。〈両面刷りの春あふれだすアイドル誌/縞田径〉多色刷りでもなく両面刷りの字余りと「春あふれだす」に表も裏もない喜びが籠められている。〈恐竜になり木二本食う初夢/縞…

「黃旗」『山口誓子句集』角川書店

週刊金曜日の金曜俳句に一句採られた日、「黃旗」部分を読む。〈ほのかなる少女のひげの汗ばめる/山口誓子〉観察力の賜物と言うべきか、あるはずのないものがあるに言及する方式と呼ぶべきか。〈夏草に汽罐車の車輪來て止る/山口誓子〉詞書は「大阪驛構内…

阿波野巧也『ビギナーズラック』左右社

未来の見えた日、『ビギナーズラック』を読む。〈イヤフォンのコードをほどく夕ぐれの雑誌売り場に取り残される/阿波野巧也〉町のスピード感から、町に求められるスマートさから、ひとり取り残される。加速しない自分と加速する町と。〈雨の降りはじめが木…

小島ゆかり『ヘブライ暦』短歌新聞社

見失った日、『ヘブライ暦』を読む。〈水にほふ冬のはじめは街角にペンギンが立つてゐるかとおもふ/小島ゆかり〉黒と白のまだらが見えたのだろう、ペンギンと見間違えるくらいの。たぶん〈薬局を出でて冬陽のなかをゆく白髪の浦島太郎を見たり/小島ゆかり…

小島なお『乱反射』角川書店

浜松古本ショッピングについて考える夜、『乱反射』を読む。〈なんとなく早足で過ぐ日差し濃く溜れる男子更衣室の前/小島なお〉学校建築として更衣室は廊下の東西南北のどちらにあるのか考えてしまう。まぶしいほどに異性へのとまどい。一方で持統天皇的な…

宇佐美魚目『天地存問』角川書店

すこし大きな賞をいただけると知らされた日、『天地存問』を読む。〈水こえる波の明るさ寒の蕗/宇佐美魚目〉せせらぎと蕗の景か、波が水をこえるという繊細さと明るさを見抜く鋭さ、波のように明るい寒の蕗。〈墨の香や夜空の中の雪解富士/宇佐美魚目〉富…

玉葉和歌集の雑歌

雑歌部分を読む。〈咲かぬ間の花待ちすさぶ梅が枝にかねて木伝ふ鶯の声/平時邦〉本番に備えて練習する鶯という「かねて木伝ふ」の面白さ。〈嬉しさも匂ひも袖に余りけり我がため折れる梅の初花/信生法師〉「袖に余りけり」という嬉しさの感情。現代なら「…

「冬の犬」「冬の犬以後」

投句した鉄塊の第十回VT句会が開かれた日、『石部明の川柳と挑発』新葉館出版の続きを読む。〈どの継目からも水洩れする身体/石部明〉継目のある身体という新たな視点がある。〈毛を抜いてしずかに月のふりをする/石部明〉月は無毛という断定がある。〈マ…

堺利彦『石部明の川柳と挑発』新葉館出版

後世に自分と同レベルの読み手が現れるだろうと世界への信頼を持てる人は強い。「馬の胴体」「賑やかな箱」「遊魔系」部分まで読む。〈鳥籠に鳥なく母は午睡せり/石部明〉鳥籠の空白を午睡の母に重ねるとき、空白は妖しい部分に至る。〈諏訪湖とは昨日の夕…

梅雨明け微分方程式

『円錐』第八十六号が届く。第四回円錐新鋭作品賞受賞者最新作を読む。「天国があると思って話していた」より〈なつのまち鏡のなかになつのまち/来栖啓斗〉上五が漢字で下五が仮名に開いてなんて無様ではなく、両五とも仮名、素晴らしい。「みんな」より〈…