以太以外

蒼褪めた巨漢は笑う水澄んで 以太

服部真里子『遠くの敵や硝子を』書肆侃侃房

メガドンキの遊び場で一歳半の吾子から玩具をことごとく奪い玩具を専有していた四歳くらいの男の子。数分後に彼が迷子としてアナウンスされていた日、服部真里子『遠くの敵や硝子を』書肆侃侃房を読む。〈梔子をひと夏かけて腐らせる冷えた脂を月光という/服部真里子〉「冷えた脂を月光という」という謎めいた説得力、〈目を閉じたまま顔を上げ月光と呼ばれる冷たい花粉を浴びる/服部真里子〉の「冷たい花粉」も強い。〈風がそうするより少していねいに倒しておいた銀の自転車/服部真里子〉「銀の自転車」ゆえに少し丁寧に倒したのか、神へ近づく命名。銀の特別さは〈人の死を告げる葉書にまぼろしの裏面ありて宛先の銀/服部真里子〉にも。〈神様と契約をするこのようにほのあたたかい鯛焼きを裂き/服部真里子〉種無しパンのように鯛焼きを。〈君を去る船団のようなものを見たある風の日の床のざらざら/服部真里子〉「君を去る船団」という虚のイメージの強烈さ。〈前髪をしんと切りそろえる鋏なつかしいこれは雪の気配だ/服部真里〉感覚の言語化、そして共通項を見つける技量の鮮やかな一面。

夕闇に手をさし出せばこぼれくる桜は乳歯のほの明るさで 服部真里子