以太以外

蒼褪めた巨漢は笑う水澄んで 以太

中嶋憲武『祝日たちのために』港の人

狭義の単調減少ならば単射なので逆関数が存在する日、中嶋憲武『祝日たちのために』港の人を読む。〈いなびかり群馬練馬をすみれいろ/中嶋憲武〉M音の暴力が脳裏に稲光のように菫色の傷として残る。〈品川の底冷粗品知る暮らし/中嶋憲武〉サ行に擦れゆく都会暮らし。〈ぽーつとしてとほい菜の花傘より雫/中嶋憲武〉「ぽーつ」の擬態語は傘を持つ人そのものであり、その人のつぶやきのように傘から垂れる雫であり、田園風景の片隅にある菜の花の曖昧さ。〈辛い教訓虹に書かれるべき言葉/中嶋憲武〉教訓と言葉は対義語のようで、スペクトラム、半ば融合している。〈傘ひらく音して古き蜥蜴あり/中嶋憲武〉傘ひらく音は雨の予感であり、一方的に降る雨をはねのけ、遡る時間の端緒でもある。〈空風のからりと影の生えてくる/中嶋憲武〉空風に揺れる木や剥がれる板の影が増える。それは生の裏側で繰り広げられる世界の伸展である。

サンドウィッチの匂ひのなかの蜃気楼 中嶋憲武