以太以外

蒼褪めた巨漢は笑う水澄んで 以太

短歌

白井健康『オワーズから始まった。』書肆侃侃房

白井健康『オワーズから始まった。』書肆侃侃房を読む。〈三百頭のけもののにおいが溶けだして雨は静かに南瓜を洗う/白井健康〉南瓜という存在のどぎつさが雨に洗われる、そのどぎつさのままに。〈自販機のボタンをみんな押してゆくどんな女も孕ませるよう…

左手親指のささくれ

カップヌードルで暖を取る左手親指のささくれから吹いてくる乾いた風/生田亜々子(『アルテリ』五号) 豊田西之島のパン屋one too many morningsで読んだ『アルテリ』五号、短歌連作「なだれるように」より。「カップヌードル」や「ささくれ」で生活の様子…

中澤系『uta0001.txt』双風舎

ふと〈結語への遠き道行き風船はいままだビルのなかばのあたり/中澤系〉が目に入り、高層ビルの中にある空洞を上がっていく黄色い風船を思う、そしてふたたび中澤系を読まなければならないと思った。〈駅前でティッシュを配る人にまた御辞儀をしたよそのシ…

穂村弘『水中翼船炎上中』講談社

中郷温水池公園へ赴いた日、穂村弘『水中翼船炎上中』講談社を読む。〈なんとなく次が最後の一枚のティッシュが箱の口から出てる/穂村弘〉この予感はよく当たる。そして最後の一枚をつまんでほじくり出す。〈口内炎大きくなって増えている繰り返すこれは訓…

小野茂樹「羊雲離散」『現代短歌全集第十五巻』筑摩書房

紙を数十枚もらった日、『現代短歌全集』の小野茂樹「羊雲離散」部分を読む。〈秋の夜の風ともなひてのぼりゆく公会堂の高ききざはし/小野茂樹〉夜に公会堂の階をのぼる。K音を連ねる高揚感がある。高さへの憧憬あるいは畏怖は〈失ひしものかたちなく風の…

大森静佳『カミーユ』書肆侃侃房

入力物を落失した日、大森静佳『カミーユ』書肆侃侃房を読む。〈顔の奥になにかが灯っているひとだ風に破れた駅舎のような/大森静佳〉駅舎の奥に最終列車の灯が点るように、どこかへ危ういところへ連れていってくれそうな人の顔として。〈春のプールの寡黙…

野口あや子『眠れる海』書肆侃侃房

右袖がひどく濡れた日、野口あや子『眠れる海』書肆侃侃房を読む。〈凍えつつ踏まれたる鉄片ありてそういうもののなかにきみ住む/野口あや子〉凍え、踏まれても弱音ひとつ吐かないきみの生き様を歌う。〈うけいれるがわの性器に朝焼けが刺さってなにが痛み…

天道なお『NR』書肆侃侃房

ららぽーと磐田で靴を買った日、天道なお『NR』書肆侃侃房を読む。〈砂粒は遠くとおくへ運ばれて生まれた街を忘れてしまう/天道なお〉砂粒のように生まれ、砂粒のように旅をして、そして摩耗するように死ぬの。〈バスタブに白き石鹸滑り落ち深まる夜の遺…

楠誓英『禽眼圖』書肆侃侃房

太さが一歳児の胴回りくらいあり、大人の背丈ほどの長さのある鰻を三匹、大きな睡蓮鉢に飼う夢を見た日、楠誓英『禽眼圖』書肆侃侃房を読む。〈自転車が倒れ後輪は回るまはるさうして静まるまでを見てゐき/楠誓英〉自転車を起こそうとしない、ただ車輪が止…

服部真里子『遠くの敵や硝子を』書肆侃侃房

メガドンキの遊び場で一歳半の吾子から玩具をことごとく奪い玩具を専有していた四歳くらいの男の子。数分後に彼が迷子としてアナウンスされていた日、服部真里子『遠くの敵や硝子を』書肆侃侃房を読む。〈梔子をひと夏かけて腐らせる冷えた脂を月光という/…

吉岡太朗『世界樹の素描』書肆侃侃房

西の方言というよりファンタジー世界の長生きする小人の話し方で吉岡太朗『世界樹の素描』書肆侃侃房を読む。〈葉が紅こうなる話などして君は会いたさをまたほのめかしてる/吉岡太朗〉紅葉は恋愛感情の比喩として楽しい。〈カーテンがふくれて夜の王国の国…

「バリケード・一九六六年二月」『福島泰樹全歌集』河出書房新社

天竜川河口付近、太平洋を前に、強い北風で子が泣く。そんななか『福島泰樹全歌集』の「バリケード・一九六六年二月」部分を読む。〈一隊をみおろす 夜の構内に三〇〇〇の髪戦ぎてやまぬ/福島泰樹〉戦闘前夜の緊張、〈検挙されなかったことを不覚とし十指も…

山川藍『いらっしゃい』角川書店

八階にある谷島屋書店のカフェで山川藍『いらっしゃい』角川書店を読む。〈ローソンのドアが手動で開けながら佐藤優の猫のことなど/山川藍〉は〈ローソンのドアが手動で/開けながら〜〉か。どうでもいいけれど佐藤優と猫がの写真を見たことがあっても佐藤…

千原こはぎ『ちるとしふと』書肆侃侃房

宅急便が呼び鈴を鳴らさない夜、千原こはぎ『ちるとしふと』書肆侃侃房を読む。〈わたししか音を立てない深夜二時ことり、とペンを丁寧に置く/千原こはぎ〉深夜の無音さを「ことり」と音で表現している。〈なにひとつ創生しない営みに「あい」なんて音ひび…

吉川宏志『石蓮花』書肆侃侃房

入野協働センターでボードゲームをした日、妻の運転に揺られながら吉川宏志『石蓮花』書肆侃侃房を読む。〈パスワード******と映りいてその花の名は我のみが知る/吉川宏志〉隠された花の名が頭から離れない。オミナエシか。〈吹き口をはずしてホルン…

戸田響子『煮汁』書肆侃侃房

林檎を買った日、戸田響子『煮汁』書肆侃侃房を読む。〈乾杯でちょっと遠い人まぁいいかと思った瞬間目が合ったりする/戸田響子〉そしてすぐ目を逸したりする。〈エサが欲しいわけではなくて鯉たちの口の動きが送る警告/戸田響子〉鯉世界の破滅、あるいは…

岡野大嗣『サイレンと犀』書肆侃侃房

こども園からのお熱コールで町一つと町半分の配達を見捨てて帰った日、岡野大嗣『サイレンと犀』書肆侃侃房を読む。〈校区から信号ひとつはなれればいつも飴色だった夕焼け/岡野大嗣〉児童にとっての異界はいつも夕焼けだった。〈友達の遺品のメガネに付い…

『寺山修司青春歌集』角川文庫

寺山修司というと私は川崎市の海岸地区を思い出す。暑すぎた夏の日々を、血の匂いのする夜の色彩を。それは戦後昭和の青春における体臭に似ているのかもしれない。〈啄木祭のビラ貼りに来し女子大生の古きベレーに黒髪あまる/寺山修司〉「古きベレー」に貧…

岡野大嗣『たやすなさい』書肆侃侃房

出張が重なると転勤すると聞いた日、岡野大嗣『たやすなさい』書肆侃侃房を読む。〈パーカーの絵文字をさがすパーカーがとどいてうれしい気持ちのために/岡野大嗣〉パーカーは詩人の戦闘服、〈ここからの坂はなだらで夕映えてムヒで涼しい首すじだった/岡…

谷川電話『恋人不死身説』書肆侃侃房

連休明けの物流に圧倒された日、谷川電話『恋人不死身説』書肆侃侃房を読む。〈「さみしい」と書いてあるのを期待して毎日開くきみのウェブ日記/谷川電話〉義務として。〈自動車できみがむかえにきてくれる このまま轢いてほしいと思う/谷川電話〉恋愛はあ…

光森裕樹『山椒魚が飛んだ日』書肆侃侃房

プレスバターサンドを貰った日、光森裕樹『山椒魚が飛んだ日』書肆侃侃房を読む。〈牛飼ひが連れて歩くは購ひし牛、売りにゆく牛、売れざりし牛/光森裕樹〉最後の七が残る。横書きだと分からないけれど縦書きで中黒ではなく読点にすると短歌の重心が右にズ…

千種創一『砂丘律』青磁社

帰浜した子が少し面長になり乳児から幼児へ変わったという感じの日、千種創一『砂丘律』青磁社を読む。〈どら焼きに指を沈めた、その窪み、世界の新たな空間として/千種創一〉のやわらかさと反発、〈窓に貼りつくのが雪で、ふりむけば部屋は光の箱であるこ…

藪内亮輔『海蛇と珊瑚』角川書店

「現代俳句」の来年二月号のティータイムに私の小文が載るとハガキが届いた日、藪内亮輔『海蛇と珊瑚』角川書店を読む。〈話しはじめが静かなひととゐたりけりあさがほの裏のあはきあをいろ/藪内亮輔〉裏は「り」とルビ。花に喩えられる人は幸いだ。〈雨と…

萩原慎一郎『滑走路』角川書店

左足小指の爪が剥がれた日、萩原慎一郎『滑走路』角川書店を読む。表現が直截である。その屈折の無さに驚く。だからこそ歌作場面の歌もあるのだろう。〈青空の下でミネラルウォーターの箱をひたすら積み上げている/萩原慎一郎〉徒労に従事という清々しさ、…

黛まどか『B面の夏』角川書店

バスターミナルを見下ろしながら佐佐木定綱『月を食う』角川書店を読む。〈噛み遭わぬ男女は帰りテーブルに折り重なったフライドポテト/佐佐木定綱〉の意外で滑稽な視点。それから時代舎古書店で買って読んでいなかった黛まどか『B面の夏』角川書店を読む…