静岡県のふじのくに芸術祭2019の詩部門で拙作「あすめざめるきみへ」が入選したので東静岡のグランシップへ県民文芸と賞状を取りに行った春雨の日、『柿本多映俳句集成』の「白體」部分を読む。〈海市より戻る途中の舟に遭ふ/柿本多映〉何が海市帰りの証となったのか、気になる、フジツボかな。〈いきいきと映つてしまふ雪女/柿本多映〉映ることすら不覚なのに「いきいきと」した雪女のポーズ、嗚呼、春になってしまいたい。〈月の僧マンホールの蓋開いてゐる/柿本多映〉円形の連想はあるが、月の僧が地下道をぬけマンホールから出てきたような感じ。〈君子蘭路地が途方に暮れてゐる/柿本多映〉「路」地が「途」方に暮れるという面白さ。〈衰への力鮮し山桜/柿本多映〉鮮しはあたらし、衰と鮮が一瞬のように咲き散る山桜で出合う。力だから桜ではなく山桜でなければならない。〈掌のうれしき窪み螢狩/柿本多映〉合わせられた掌の窪みに螢火がある。〈草いきれ烈し向か合ふ坂ふたつ/柿本多映〉住宅街のなかの擂鉢地形、坂が向き合っている様が陽光のなかに見える。湿気がこもるから草いきれも「烈し」い。地形俳句の秀句。〈凍蝶に渉りそびれし川のあり/柿本多映〉蝶の古名はかはひらこ、なのに川を渡り損ねて季節はめぐり凍蝶になってしまった。
肉食の午後や祭器のくもりをる 柿本多映