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以太以外

病名は人間性や夕野分 以太

「蝶日」『柿本多映俳句集成』深夜叢書社

俳句の解釈は夢日記と似ている。覚えていられる夢は文字情報にして二十文字に満たないだろう。夢景を文字に置き換えてそれに加えて夢日記とする、その工程は俳句の解釈と類似している。「蝶日」部分を読む。〈朽ち舟の繫がれてゐる桃畠/柿本多映〉熟れ桃の崩れやすさと腐れ木の朽ちやすさ、桃太郎の老後をふと思う。〈桜満ち真塩の乾く夜なりけり/柿本多映〉頭上の白と足下の白、鹵花。〈風はらむ花野や指の漂へり/柿本多映〉指とは触覚、花野や秋風へと触覚が魂のように飛ぶ。〈草が生え濡れはじめたる春の寺/柿本多映〉濡れ、湿るのは春の兆し。不浄の寺だから無垢な命の芽生え。〈かたつむり死して肉より離れゆく/柿本多映〉肉から離れるのはかたつむりというイデア≒形相、置いていかれる肉は質料。〈蛇眠る山より蒸気たちのぼる/柿本多映〉生命の煮える蒸気として、いったい一山に何万匹の蛇が眠るのか〈てふてふやほとけが山を降りてくる/柿本多映〉童子めく春の仏の歩みはてくてく、いや、てふてふ。

水飯のびつしり詰まり天の川 柿本多映