以太以外

辷り台に脚を忘れた虫の闇 以太

読解

榊原紘『悪友』書肆侃侃房

※ 二読目です。(一読目)でも諸事情により書き終えらなかったので、途中まで載せます。 観念への憧れがある。実際の名は実体を表さないし、表された実体も歪で観念には至らない。 五千年後の語彙を想像してみてよ ティースプーンでスコーンを割る 榊原紘 な…

千葉聡『微熱体』書肆侃侃房

雨続きで滅入る日、『微熱体』を読む。〈教科書など鞄の底に押し込んで夏は海辺のホテルでバイト/千葉聡〉本の形がはみ出た鞄を持って毎朝海へ通う、光り。〈コンビニまでペンだこのある者同士へんとつくりになって歩いた/千葉聡〉創作に手を染めた罪深い…

穂村弘『シンジケート』講談社

〈別件の顔をしてくる会社員/以太〉が麦誌上句会テーマ「別」特選になっているのを見た日、『シンジケート』を読む。〈郵便配達夫の髪整えるくし使いドアのレンズにふくらむ四月/穂村弘〉郵便配達夫にメイルマンとルビ、そういう時代もあったのだろうか。…

『鈴木裕之俳句集』昭和年間、海坂発行所

昭和年間の句を読む。〈栗園に花の渦まく農学部/鈴木裕之〉○学部の句は好き。〈真菰刈りて月に火星の隣り合ふ/鈴木裕之〉真菰生ふ川から天の川、宇宙を連想する。〈明日登る峰尖りをり吊し柿/鈴木裕之〉筆柿だろう。〈島々に民話多しや枇杷熟るる/鈴木裕…

津川絵理子『夜の水平線』ふらんす堂

新静岡の百町森へ行った日、『夜の水平線』を読む。〈受話器置く向かうもひとり鳥渡る/津川絵理子〉電話で気持ちは渡る。〈若狭より電気の届くふきのたう/津川絵理子〉原子力発電所とふきのとうの形状について。〈橋脚は水にあらがふ夏燕/津川絵理子〉夏…

金子兜太『詩經國風』角川書店

〈おびただしい蝗の羽だ寿ぐよ/金子兜太〉蝗は飢饉を招きかねない。でも寿ぐ、自然のありのままの動きとして受け入れる大きさ。〈雲も石もいない山なり現存す/金子兜太〉ただ山としてそこにある。〈月が出て美女群浴の白照す/金子兜太〉と〈渚辺に若きら…

工藤玲音『水中で口笛』左右社

新聞社から電話のあった日、今や渋民村の工藤玲音から日本のくどうれいんになった工藤玲音の『水中で口笛』を読む。〈死はずっと遠くわたしはマヨネーズが星形に出る国に生まれた/工藤玲音〉マヨネーズの星形に宿命論を見る。設定がわざとらしくなくていい…

笹川諒『水の聖歌隊』書肆侃侃房

梅雨入りした日、『水の聖歌隊』を読む。〈ひるひなか 薄ぼんやりしたエッセイを積み木で遊ぶみたいに読んだ/笹川諒〉そんなエッセイを、たとえばトルコとかベトナムとかコロンビアとか知らない作家のエッセイをまひるに読みたい。〈呼びあってようやく会え…

犬養楓『前線』書肆侃侃房

インド変異株が日本にすでに感染しているかもしれないのに黄金週間で多くの人が移動している日、『前線』を読む。〈同僚の鼻を拭った綿棒がこの病院の命運決める/犬養楓〉病院に限らずコロナ禍では綿棒一本で生活が一変する。〈財源は誰かの痛みの分であり…

石井僚一『死ぬほど好きだから死なねーよ』短歌研究社

自由律俳句を楽しむ会第一回に〈ウーバーイーツで買えた春風/以太〉が載った日、『死ぬほど好きだから死なねーよ』を読む。〈父危篤の報受けし宵缶ビール一本分の速度違反を/石井僚一〉飲酒運転ではなく速度違反というズラシの面白さ。〈遺影にて初めて父…

小佐野彈『メタリック』短歌研究社

雨のなか硝子に囲まれたストリートピアノを観ながら『メタリック』を読む。〈ママレモン香る朝焼け性別は柑橘類としておく いまは/小佐野彈〉とある未知数としての柑橘類。〈セックスに似てゐるけれどセックスぢやないさ僕らのこんな行為は/小佐野彈〉繁殖…

坊城俊樹『壱』朔出版

肩がこる日、『壱』を読む。〈焼夷弾降りしあたりを都鳥/坊城俊樹〉隅田川あたりの業平の物語と戦中とが交錯する。〈出征し負傷し此処に暦売る/坊城俊樹〉靖國神社のカレンダーだろう。糊口をしのぐために暦売りをしなければならない。〈零戦といふ夏空の…

希望の音

『僕は行くよ』に〈後頭部をつめたい窓にあずければ電車の音が電車をはこぶ/土岐友浩〉という短歌が収められている。この歌で後頭部の持ち主は目をつむっている。そして骨伝導で「電車の音」を聴いている。もちろん電車をはこぶのは電気による駆動であるけ…

霏霏Ⅱ第2号

霏霏Ⅱはひひnextと読む、熊本県で創刊した季刊の俳誌。〈デジタルが雪を神話に変える村/中山宙虫〉動画に撮るときデジタルという仕組みは擬神の役割を果たす。〈柊ほろほろ けものの体温で/星永文夫〉柊の小さな白と獣の吐く息の白さの対比が美しい。〈疫…

鴇田智哉『エレメンツ』素粒社

Ⅰ 〈海胆のゐる部屋に時計が鳴る仕掛/鴇田智哉〉は〈階段が無くて海鼠の日暮かな/橋閒石〉を思う、時間の流れと海洋生物と日だまりのマッハ哲学における感覚的関数みたいな。〈分銅を置きかへて日の深まりぬ/鴇田智哉〉これも安定した感覚のかたまりであ…

飯田有子『林檎貫通式』書肆侃侃房

〈女子だけが集められた日パラシュート部隊のように膝を抱えて/飯田有子〉ただ落下するために。〈足首まで月星シューズに包まれていさえすればいさえすればね/飯田有子〉それさえあればだいじょうぶな気がするムーンスターの靴。〈オーバーオールのほかな…

第四回浜松私の詩コンクール入賞作品を読む

第4回浜松「私の詩」コンクール一般の部において「薬局にある象の遊具」という詩で浜松市長賞をいただいた。前回に引き続き2回連続の浜松市長賞である。また入賞作を読む。 小学生の部 浜松市長賞の佐野未歩「大きい小さい」は思弁的である。人間と地球と宇…

吉田恭大『光と私語』いぬのせなか座

〈いつまでも語彙のやさしい妹が犬の写真を送ってくれる/吉田恭大〉やさしい語彙のひとつとして犬の写真をもらう。〈もうじきに朝だここから手の届く煙草と飴の箱が似ている/吉田恭大〉徹夜明けか早朝覚醒のボンヤリさがわかる。どちらも口寂しさを紛らわ…

佐藤弓生『世界が海におおわれるまで』書肆侃侃房

〈秋の日のミルクスタンドに空瓶のひかりを立てて父みな帰る/佐藤弓生〉誰かの父であろうサラリーマンたちが牛乳を飲み干してどこかへ帰る。ミルクの語感と父のギャップが面白い。〈神さまの貌は知らねどオレンジを部屋いっぱいにころがしておく/佐藤弓生…

『県民文芸』第六十集

ふじのくに芸術祭2020こと第60回静岡県芸術祭の短歌部門受賞作を読む。静岡県芸術祭賞「転移」より〈疲れはて眼おさえる我の背をおずおずと撫ず力なき手が/勝田洋子〉、冷たいけれどあたたかい手だったのだろう。奨励賞「冷蔵庫のなかの空」はもちろん省略…

銀杏文芸賞短歌の部入賞作

「銀杏」第二十号、令和二年度海音寺潮五郎記念文芸誌に掲載されている銀杏文芸賞短歌部門入賞作を読む。最優秀賞「その日待つ」より〈このまんま落ちてゆくならこわくない屍のポーズのレッスン中に/﨑山房子〉血管瘤の手術へ向けた連作、「屍のポーズ」が…

鈴木ちはね『予言』書肆侃侃房

子規記念博物館へ葉書を出した日、『予言』を読む。〈ザハ案のように水たまりの油膜 輝いていて見ていたくなる/鈴木ちはね〉曲りくねって豪奢に輝く油膜? そういえば、まだ東京オリンピックやっていない。〈どんぐりを食べた記憶があるけれどどうやって食…

盛田志保子『木曜日』書肆侃侃房

〈泡志願少女は波にのまれゆく地に足つけてあゆめる痛み/盛田志保子〉ドキッとする。「地に足つけて」により、生活のために身を売る泡姫を思わせる。〈障子戸が開きむかしのいとこたちずさあっとすべりこんでくる夜/盛田志保子〉元気、いとこたちと遊んで…

正岡豊『四月の魚』書肆侃侃房

海際のカフェで『四月の魚』を読む。〈夢のすべてが南へかえりおえたころまばたきをする冬の翼よ/正岡豊〉はばたきはまばたきとなる。夢と空との浮遊感における相関が美しい。〈さかなへんの字にしたしんだ休日の次の日街できみをみかけた/正岡豊〉「さか…

春日井建「未青年」『現代短歌全集第十四巻』筑摩書房

海際のスナックがカフェになっていた日、「未青年」を読む。〈空の美貌を怖れて泣きし幼児期より泡立つ声のしたたるわたし/春日井建〉美貌は晴れか曇りか。〈啞蟬が砂にしびれて死ぬ夕べ告げ得ぬ愛にくちびる渇く/春日井建〉「砂にしびれて」の詩的ふるえ…

壬生キヨム『作中人物月へ行く』白昼社

入野町にできたじゃじゃの私設図書館に入ったという『作中人物月へ行く』を読んだ。〈ああこれは昔、郵便飛行士を殺した雨と同じ甘さだ/壬生キヨム〉サンテグジュペリの死を思う。〈大切な日のため持っておくんだよいつも避けてた薄荷キャンディ/壬生キヨ…

「炎晝」『山口誓子句集』角川書店

〈手袋の十本の指を深く組めり/山口誓子〉怒りとして読めないのは手袋の手触りがあるからだ。〈秋の雲つめたき午の牛乳をのむ/山口誓子〉牛乳はちち、白さと濃さとが強調されている。〈メスを煮て戸の玻璃くもる冬となりぬ/山口誓子〉灰色の暗い寒さがあ…

吉岡生夫『草食獣第四篇』和泉書院

新年俳句大会で〈ひいらぎの花列島に雲ひとつ/以太〉が会長入選句となったと知った日、『草食獣第四篇』を読む。〈つきあがりし餅の熱さをもろばこに移すつかのま臓器おもひぬ/吉岡生夫〉外科手術で切り落とされた臓器。〈花火より帰れるひとかざわめきの…

中島斌雄「樹氷群」『現代俳句体系』角川書店

久々の休み、中島斌雄を学ぼうと思う。〈ニコライに寒月かくれ坂となる/中島斌雄〉御茶ノ水のニコライ堂、月が動いたのではなく作中主体が坂を動き月が隠れた。〈吹雪きつゝ歩廊の時計みな灯る/中島斌雄〉人工の灯が吹雪を照らす。〈手に触れしポストの口…

土岐友浩『僕は行くよ』青磁社

ただひたすらに眠い日、『僕は行くよ』を読む。〈図書館はあまりなじみのない場所で窓から見えるまひるまの月/土岐友浩〉異郷感の具象としての「まひるまの月」がややSFめいて光る。〈鉛筆の芯をするどく尖らせて「無」と書いていた西田幾多郎/土岐友浩〉…