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以太以外

病名は人間性や夕野分 以太

正木ゆう子『玉響』春秋社

俳諧自由として〈地虫鳴く総面積を求めなさい/以太〉を胸に『玉響』を読む。〈春眠の繊毛戦ぐ耳の奥/正木ゆう子〉親しい人の耳であろう。〈以来そこにあるヘルメット走り梅雨/正木ゆう子〉事故か何かある出来事から彼はバイクに乗らなくなった。梅雨に思いを託す。〈たれも見ぬ深山の螢火になれるか/正木ゆう子〉きっとなれないのだけれど。〈美しいデータとさみしいデータに雪/正木ゆう子〉データを描くホワイトを思う。〈兵戈なき雛壇をこそひなまつり/正木ゆう子〉随身はいないほうがいい。〈黒豆を煮るや黒耀石の艶/正木ゆう子〉おいしさの発見。〈息白くわれへ繋がる太古かな/正木ゆう子〉太古の人も息は白く、息の色は繋がっている。〈行く鷹の後ろにこの世なき如く/正木ゆう子〉颯爽と、という言葉そのままに猛禽は飛ぶ。〈よき枝のあれかし旅の夜の鷹に/正木ゆう子〉鷹の今後を寿ぐ視線がある。〈人亡くて誕生日くる雨水かな/正木ゆう子〉人が死に、産まれても暦は巡る。〈紅梅の蘂蘂白梅の蘂蘂蘂/正木ゆう子〉小さなものへの視線がある。〈ゆらめいてこの星もひとつぶの露/正木ゆう子〉はるか宇宙から見れば地球も小さなひと粒。