以太以外

空の色尽きて一月一日に/以太

なつはづき『人魚のころ』朔出版

〈切手貼るさっき小鳥がいた場所に/なつはづき〉小鳥来るではなく小鳥去る。その場所はどこへでも通じる場所だ。〈啓蟄やどんな森にもなる図書館/なつはづき〉啓蟄という生き物の芽吹きに、図書館も自然に還るのだ。〈嚔して守衛は顔を取り戻す/なつはづき〉この守衛は居眠りしていたのだ。〈傷ついた羽根落ちている卒業式/なつはづき〉卒業とは傷つき終わること。〈ところてん宣戦布告だったのか/なつはづき〉ところで、ところてん〈どの骨が鳴れば花野に辿り着く/なつはづき〉骨を強調してからだのうちを剥き出しにしたことで怪しい情景となる。〈QRコードの中の水涸れる/なつはづき〉QRコードに付着しただろう水滴の省略表現によって黒い迷宮のなかの水を思う。〈枯芝やバンクシーなら声を描く/なつはづき〉あいつなら描けるかも!〈しゃぼん玉民法何条かに触れる/なつはづき〉何条かはわからないけれど法に触れる、そしてはじける。〈絵本から入る抜け道春の雪/なつはづき〉春の、たのしい雪世界へはなるほど絵本から入るのだ。〈足音を取り換えにゆく枯野かな/なつはづき〉冬の、姿の見えない人を思う。〈睡眠薬飲む水ひんやりと流星/なつはづき〉深海の底の夢みたいな句だ。〈心から遠い指先あすは雪/なつはづき〉「遠い指先」でとても寒いんだと分かる。

空の色決められぬまま梨を剥く/なつはづき