麦同人で麦メール句会の管理者である坂田晃一さんの句集『耳輪鳴る』が届いた。〈身の裡は夜空と思ふ竹夫人/坂田晃一〉星をかなしい心臓として〈桃啜る悪人ばかり出る映画/坂田晃一〉きっとアウトレイジ、それでめっちゃ汁でズボンを濡らしている。〈国も角砂糖も崩れ冬深し/坂田晃一〉白が濃い。国旗も白いし。〈卒業やキューピーほどの翼持ち/坂田晃一〉そんなに大きな進路や希望はないみたい。〈雨よりも濡れし音立て木の実降る/坂田晃一〉たぶん重い湿果だろう。〈冬麗や昭和の傷もある硬貨/坂田晃一〉荒っぽい時代をいくつも超えてきた。〈海の日やシャツに彫られしごとき影/坂田晃一〉影が濃いのは陽が濃いから。〈どこに繋がる電話ボックス朧の夜/坂田晃一〉地中の線でどこか別の星と繋がっているのかも。〈義士の日のレコード針を置けば雪/坂田晃一〉殺陣でBGMが流れ出すのを思い出す。〈ふくろふの鳴く森蔵し母の膝/坂田晃一〉母の膝に秘められたさまざまな物語。〈野焼の火冷たき銅貨握りしめ/坂田晃一〉火と金と、五行説のはざまで手の色が変わるまで握りしめる。〈光合成したる白シャツ手をとほす/坂田晃一〉シャツがぽかぽかしている。〈月涼し硬貨を飲むといふ電話/坂田晃一〉まるでやわらかい生物のようにその電話は硬貨を飲む。タイトルの耳輪とをはじめ、硬貨のように金硬いものと肉のやわらかさとの対照が印象的な句集だった。