以太以外

空の色尽きて一月一日に/以太

藺草慶子『雪日』ふらんす堂

静岡新聞の新春読者文芸で〈手に金箔年賀はがきを完配す/以太〉が入選した日に『雪日』を読む。〈祈りけりわが白息につつまれて/藺草慶子〉白息が神秘的な雰囲気をつくる。〈すれちがふ巫女に鈴音花きぶし/藺草慶子〉花のすがたかたちと巫女の音とが合う。〈鳥籠の中の明るき彼岸かな/藺草慶子〉籠のなかの岸に目眩がしそう。〈蟬の殻拾へば指に風の音/藺草慶子〉夏の生ぬるい、生命感のある風だろう。〈刃先より受けとる熊の肝一片/藺草慶子〉武骨さがいい。〈夏座敷遺影のいつもこちら向く/藺草慶子〉は〈次々に走り過ぎゆく自動車の運転する人みな前を向く/奥村晃作〉を彷彿とさせるそりゃそうだ句、でも怖さもある。〈凶年の雨の中なる鳥居かな/藺草慶子〉これも鳥籠・彼岸句のように奇妙な包含関係がある。〈教室の机の光るさくらかな/藺草慶子〉長年使われた机は磨耗して、てらてら光る。また今年も桜の季節になる。〈弟はいつも弟さくらんぼ/藺草慶子〉そりゃそうだ句だけど弟の弟性の持続性に言及している。〈水漬きたる舟の中まで薄氷/藺草慶子〉好き、ありえそうな景ではある。〈ゆきずりの書店明るし日記買ふ/藺草慶子〉ゆきずりという偶然で一年使うものを買うおかしさ。〈水草生ふ父の記憶の中の吾/藺草慶子〉水草のゆらめく感じが句に合う。〈家の中見ゆる暮らしや吊忍/藺草慶子〉家の中、住人の心のなかそのもののような吊忍。〈手花火の煙の中をとほりけり/藺草慶子〉小さな、でもたのしげな煙。〈ひらく手の中なにもなき小春かな/藺草慶子〉なにも持たないという冬だ。〈音こぼしつつ風鈴の向きかはる/藺草慶子〉風のすがたが見える。〈青鳩が来る雲の中波の上/藺草慶子〉「雲の中」という驚き。〈秋水のひかりの届く画室かな/藺草慶子〉反射光があるのだろう。〈歳晩やどれも日当たる河原石/藺草慶子〉みな平等に。〈飛花落花地に落ちてなほしづまらず/藺草慶子〉落ちただけでは飛ぶのも落ちるのも終わらない。それにしても、奇妙なうちがわの句集だった。