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以太以外

病名は人間性や夕野分 以太

辻征夫『貨物船句集』書肆山田

ひどく体がつかれている。〈ひとことにひとつ胡蝶のかるく舞い/辻貨物船〉うなずくように。〈幾千の墓標の街や虫しぐれ/辻貨物船〉街の人はみな滅んでしまったような。〈つゆのひのえんぴつの芯やわらかき/辻貨物船〉信じてしまいそう。〈かつてありし大樹の跡の百千鳥/辻貨物船〉いまは四散してしまい。〈胡桃割る不思議なものは何もなし/辻貨物船〉胡桃の殻はなにも秘めていない硬さ。〈にぎわいはなみばかりなる冬の浜/辻貨物船〉否定形を使わずにさみしさを表現する。〈火事見舞まだ盛大に燃えている/辻貨物船〉見舞はいまじゃない。〈雪降りつもる電話魔は寝ている/辻貨物船〉電話し疲れて。〈元祖ふらここ終日千円乗り放題/辻貨物船〉人気アトラクション。〈満月や大人になってもついてくる/辻貨物船〉時間を超えるという奇想。

 

貨物船句集

貨物船句集

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