麦同人、小田笑さんの句集が届いた。〈東京に傷があるから初蝶来/小田笑〉傷=創だろう。それを東京への入口として生まれてくる。〈春陰や金貨剥がせばちょこれいと/小田笑〉春陰が偽造金貨感を出している。〈飛んだのか飛ばされたのか石鹸玉/小田笑〉風の切れ目があったのだ。〈蚊帳揺らす唇厚き深海魚/小田笑〉夜とつがなる深海。〈短夜や青の溶け出すハーブティ/小田笑〉魔女の壺めく。〈本来は左利きなり蝸牛/小田笑〉これはちょっとすごい句。蝸牛の左巻き種は全体の一割ほどという。〈子午線をはみ出て赤き眼の守宮/小田笑〉見えない線だけれど、偉大な子午線を超える生命の反応。〈草いきれ地球に酸素ありにけり/小田笑〉酸素濃度は恐竜時代と現代とで異なるという。〈黒板の右と左に扇風機/小田笑〉客観写生、教室全体を見回して左右対称を見いだす視線がおもしろい。〈砂浜を砂の走りて夏の果/小田笑〉終末感がいい。〈石鹸の裏がふやけて敗戦日/小田笑〉よくある生活の情景が歴史的事象と接続する妙。〈鰯雲坂の向こうも坂の町/小田笑〉地理的な広がりが鰯雲によってひきたてられる。幻想の町のように。〈炬燵出て深海の魚泳ぎ出す/小田笑〉これもまた居間と深海の接続。〈切り開く牛乳の箱白鳥来/小田笑〉ぱっと牛乳パックを開いたときの白鮮やかなること白鳥の如し。〈パソコンの裏に貼り付く冬の蝶/小田笑〉人目につかないように忍び寄るあやしさ。