以太以外

空の色尽きて一月一日に/以太

小原奈実『声影記』港の人

〈試験管の内壁くだる一滴の酸 はるかなる雲はうごかず/小原奈実〉試験管のうちと大気圏のうち、小と大の、でも同じく閉ざされたうちがわの変化の対比。〈読み終へし手紙ふたたび畳む夜ひとの折りたる折り目のままに/小原奈実〉手紙を書いた人はどんな思いで折ったのか、想いを馳せる。〈血球が血管を掠る音などをしづかといへり二月まひるま/小原奈実〉音がすることを静かとする奇矯。〈星を聴く器官をたれももたざるに解剖なれば脳切りつくす/小原奈実〉「聴く」だから耳と考えるのは安易すぎる。それは脳にあり、脳にはない器官だろう。解剖への造詣を感じる。〈眠りなさい かくばかり世を見つめては眼から椿になつてしまふよ/小原奈実〉自らへの諭しだろうか。椿はもげるように落ちる。〈梨剥きて梨のかたちの刃の痕を空ひろき日の昼餉となせり/小原奈実〉梨を剥いたこと、剥いてくれたこと、その証としての刃の痕を糧とする。〈繁体の活字の限りなき棚にくさかんむりの一隅やさし/小原奈実〉かすかに草原のにおいがする。本棚の秩序に特徴があることを謳ってもいる。最後に寺山修司調の一首を。

わが手技に殺ししものを捨てにゆくしづけさはまづ刃物を置いて 小原奈実

声影記

声影記

Amazon