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以太以外

病名は人間性や夕野分 以太

小澤實『澤』角川書店

〈秋風やカレーにソースかけて父/小澤實〉カレーにソース、たぶん味見もせずにソースをかける父。〈雪嶺まで信号五つすべて青/小澤實〉幸先が良い。田舎なので交差する道路は車が少ないのだと分かる。青っぽい雪。〈一支線二輛往復さくら咲く/小澤實〉のどかな田舎風景。〈をんなの子同士の相撲すぐ引き分け/小澤實〉そういうものなのかも。争わない。〈さはやかに知多と渥美とむかひあふ/小澤實〉地理俳句。〈即死以外は死者に数へず御柱/小澤實〉祭の高揚感のなかで死ぬという愉悦。〈海に入る直前冬日拡がれる/小澤實〉日の入りを最後まで見届ける目。〈鍋深くスープ澄みをり冬籠/小澤實〉長らく火を点けていなかったのだろう。〈雪つけず墓一群や雪の中/小澤實〉いまどきの墓は雪の結晶を弾く。〈残雪の一文字なり畝の間/小澤實〉葱畑だろう。〈階段の鉄ひびきける西日かな/小澤實〉非常階段だろう。誰か来る。〈サーファーの頭頭頭頭頭頭頭波を待つ/小澤實〉灰色の海で。

薫風や頬杖ついてかんがへず 小澤實