以太以外

空の色尽きて一月一日に/以太

大塚凱『或』ふらんす堂

コーラと虹と火事と墓参の句集と思う。〈いつか住む街を迷へば鰯雲/大塚凱〉鰯雲には迷走の雲感がある。〈目つむりてゐても西日がつらぬくバス/大塚凱〉映画シルミドの最後に乗っていたバスもかんたんに銃弾に貫かれていた。〈秋よ詩を読むこゑが思つたより若い/大塚凱〉声に老いがないのだろう。〈帰りくる帆があり秋の名もない帆/大塚凱〉帆のリフレイン。〈ペン先を馬と思へば夜が進む/大塚凱〉筆記という旅だ。〈海市から見ても僕だとわかる鼻/大塚凱〉わかるわけは大きさではない、照りだ。〈蠍座のほとりに濡れてゐる卵/大塚凱〉蠍座蠍座の人という川、というか時間という解釈でいいだろう。生殖を思うのは〈蠍座や公園ぬるくつるみあふ/大塚凱〉もあるから。〈みじんこのなかのつめたい機械かな/大塚凱〉ああ、これすごくいいね。機械をひろい意味で読みたい、遺伝子とか。〈みぢんこのねむらず殖えて街に雪/大塚凱〉も機械感ある。〈なにもない丘のねむたさ桃の花/大塚凱〉蕩蕩という感じがする。丘といえば〈寝静まるあなたが丘ならば涼しい/大塚凱〉も。丘と眠り。〈胸と胸かさねてゐるとどこかで火事/大塚凱〉『ノルウェイの森』小林書店から見る火事のように。〈死後あたたか郵便受けをあふれる紙/大塚凱〉孤独死の家だ。死んでも請求書は届くなんてあたたかな世の中よ。〈文体がちがふ夜食のまへとあと/大塚凱〉これは或るあるとしか言えない。〈炎帝に飼ひ殺されて砂残る/大塚凱〉逆に言うと砂しか残らなかった。〈雪の日のピザが来るまでさはりあふ/大塚凱〉クリスマス感がある。〈シードル醸すひっきりなしに蝶の私語/大塚凱〉醗酵音と蝶のことばの取り合わせ。〈哺乳類離れてゆけば炬燵に似/大塚凱〉炬燵に似る哺乳類は人でしかない。〈氷旗ふつうの川をふつうに撮る/大塚凱〉夏の鮮やかさでふつうの川も撮りたくなる。水の固着化が氷だった。〈祭日をどつと使つてトマト煮る/大塚凱〉ホトトギス的安心感がある句だ。〈立てかけたままの網戸や味の素/大塚凱〉決してていねいではない生活を楽しむ。〈からすうり苗字がうつすらと絶える/大塚凱〉烏瓜のうっすら田舎感が活きる。〈冷房に乳房の唾液うすく光る/大塚凱〉房と房と。〈夜桜やうるほふ肉のわたしたち/大塚凱〉しっとりと。〈吹かれくる簡単服のいうれいも/大塚凱〉簡単服だからじゃないけれど幽霊に足はない。地に足つかない。