以太以外

空の色尽きて一月一日に/以太

中村和弘『荊棘』ふらんす堂

古い季語に新しい味わいをもたらす句集かな。〈パイプ椅子耀く下に蝶死せり/中村和弘〉体育館だろうか、硬さと柔らかさの対比。〈キリンの脚の巨き関節夏に入る/中村和弘〉キリンの足音も響く。〈ゼッケンの布ざらざらと秋日かな/中村和弘〉運動会の気配がある。〈真つ赤なるタンドリーチキン雛まつり/中村和弘〉新しい季語の味わい。〈隕石の滑らかにして弥生かな/中村和弘〉隕石の滑らかな仲春のあたたかさ。〈熱帯の花粉にまみれ涅槃仏/中村和弘〉上座部仏教的な新しいご利益がありそう。〈ゆつさゆつさと駝鳥の駆けて雲の峰/中村和弘〉大きな夏野の景がひろがる。〈アンモナイトの化石渦巻き初日かな/中村和弘〉アンモナイトと初日とは珍しい、円みが共通項だろう。〈日本の偉才めきたるところてん/中村和弘〉つゅるばーんな感じ。〈宇宙なお膨張しつつ蚊の声す/中村和弘〉極大と極小の対照。〈白魚に跳ぬる力を朝日かな/中村和弘〉跳躍が光る。〈野遊びの土管の中は雲ばかり/中村和弘〉寝転んで空を見ているのだろう。〈万緑の羽音は遠きバイクかな/中村和弘〉初夏はバイカーが増える。〈風船の破片はりつく溽暑かな/中村和弘〉これはゴム風船だろう。〈砂山の石英光り良夜かな/中村和弘〉地学的視点の句だ。〈草食獣の唇厚く春立てり/中村和弘〉中七までの逸らした措辞がいい。〈大凧の骨の刺りし砂丘かな/中村和弘〉中田島砂丘だろう。〈ハンカチは水分として涙吸う/中村和弘〉ハンカチや布にとっては涙も汗も水分でしかないのだ。