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以太以外

病名は人間性や夕野分 以太

小川軽舟『無辺』ふらんす堂

かつ丼の蓋の雫や春浅き/小川軽舟〉春の雪が溶け、湿り始める気配をカツ丼の蓋の裏に見つける。〈/小川軽舟〉〈春郊の道あつまりて橋一つ/小川軽舟〉いいな。道の集まって橋となる様は確かに春めいている。〈新しき街に寺なしチューリップ/小川軽舟〉人工度の高い街に死の匂いをさせる寺はない。そこへ中央アジア・トルコ・オランダから外来植物であるチューリップを合わせた趣き。〈バーベキュー薫風汚すこと楽し/小川軽舟〉季語の粗雑な扱いが愉悦。〈アトリエに暮らすモデルや雪の朝/小川軽舟〉このモデルはたぶん裸に毛皮を着ている。〈ドア開けて待つタクシーや蝶の昼/小川軽舟〉蝶がそのまま客になりそう。〈街宣に美青年あり実朝忌/小川軽舟〉暴力ではなく言葉の暴力で。〈蜜豆や出てみたかりし文学部/小川軽舟〉そんなには甘くない。〈一階に載せて二階や氷水/小川軽舟〉甘さを重ねに重ねる。〈珈琲はデカフェ夜長の窓あけて/小川軽舟〉カフェインは夜に似合わない。〈漂着のごと老人の日向ぼこ/小川軽舟〉日向ぼこか変死体かわからないまま。〈春の人眠り手首にレジ袋/小川軽舟〉買い物帰りに疲れて寝てしまったか。だんだんレジ袋は垂れていく。〈旗立ててチキンライスの孤島に夏/小川軽舟〉夏休み感、ある。

虹に声奪られし我ら虹仰ぐ 小川軽舟