大寒波のなか『王将の前で待つてて』を読む。〈テレビ二台ちがふ番組スナック夏/川上弘美〉商店街とかのアットホームなスナックだろう。〈闘魚しづか昼のスナックカウンター/川上弘美〉これもスナックの景、ベタのちいさな水槽だろう。〈水槽の魚みな透ける寒九かな/川上弘美〉もまたベタだろうか。〈サイダーや雨やむまへの鳥のこゑ/川上弘美〉このちぐはぐな感覚いいね。〈ひとふさのバナナの中の老と若/川上弘美〉なんか世界の真理っぽい。〈目閉づれば口開くなり春の潮/川上弘美〉春の潮は人の知らりえない地底を流れる原理のこと。〈浅草や鉄火場に飼ひ熱帯魚/川上弘美〉スナックの闘魚と似たたたずまいの句だ。〈黒南風や男の指に指輪跡/川上弘美〉指輪をつけてなくすまでの男の前半生へ想いを馳せる。〈箱どけて埃箱形西日中/川上弘美〉箱形に「はこなり」とルビ。西日という死を思う。人の生きたあとのような。〈卯の花腐し画鋲の穴に画鋲さす/川上弘美〉淫靡な連想もできる。
寒波来る石工の爪に石の粉 川上弘美
