以太以外

空の色尽きて一月一日に/以太

涼野海音『虹』ふらんす堂

〈初旅や雲かがやいて雲の中/涼野海音〉飛行機と書かない飛行機句。〈寒卵非常口より光さす/涼野海音〉いまわたしたちは卵のなかにいます。〈履歴書の空欄に汗落ちにけり/涼野海音〉空欄は人事担当が読まないところだ。〈辛口のカレー勤労感謝の日/涼野海音〉頭韻K音のたのしさ。〈短日の手帳ひらけば海の音/涼野海音〉このさりげない動作と自然現象との取り合わせが巧い。〈水温む鳥ばかり描く少年に/涼野海音〉水の蒸発と空とを思うけれど〈未知の空あり風船に青年に/涼野海音〉と近い句だ。対にすると空への希求を得る。〈五月来る森の中なる神学部/涼野海音〉五月と神学が近い気がしたけれど下五が学部はまず採るのが私だ。〈黄落や膝につめたき黒鞄/涼野海音〉黄と黒という強いコントラストの組み合わせ。〈交番の聖樹に星のなかりけり/涼野海音〉発見の句、年末の警察をとりまく事情をも連想させる。