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以太以外

病名は人間性や夕野分 以太

2020-01-01から1年間の記事一覧

永田和宏『荒神』砂子屋書房

第二十回海音寺潮五郎記念「銀杏文芸賞」の入賞者が発表された日、「荒神」を読む。〈もとめて人を抱きたるのちの夕闇にからすうりは白き花をなげうつ/永田和宏〉「もとめて」の意味深さ、烏瓜の花の妖美さ。〈浜松を過ぎしあたりでバッテリー切れたればさ…

『同志社短歌六号』

〈本棚をまるごと捨てなよバイブルは私と君で十分だもん/池田明日香〉図書館派と聖書派の対立が背景にある。〈父親と食事に来たからスマホ置く 別に会話をしたりはしないが/太田〉人間として太田氏を好きだと思う。〈これは墓標 ジャムの瓶に突っ込んだス…

動物の鳴き声

動物の鳴き声の文字化です。一般に知られている擬声語や擬音語とは異なり、実際の声や音に近づけました。

「土地よ、痛みを負え」「朝狩」『岡井隆全歌集』思潮社

労組機関紙俳句欄で〈梅雨明けやひっくりかえすおもちゃ箱/以太〉が採られていた日、「土地よ、痛みを負え」「朝狩」部分を読む。〈渤海のかなた瀕死の白鳥を呼び出しており電話口まで/岡井隆〉何を訊き出そうというのか。「渤海」の語で電話線は時間と空…

デカメロン抄

九月二十七日日曜日に静岡市へ行った。東名高速道路を使い、牧之原サービスエリアのドッグランの周りで娘を遊ばせた。静岡市内へ入り、鷹匠に新規開店したひばりブックスへ寄ったあと、もくせい会館での静岡県現代俳句大賞表彰式に参加した。コロナ禍のため…

『北大短歌 第八号』

眠れない未明に読む。〈あまりにもでかくて花と分からない壁画を見ていた壁にさわった/山口在果〉捉えきれない大きさを手のひらに感じようとする。〈周辺地図の裏に回ればなにも無い裏に付いてるやぶれた蛹/小田島了〉なんにも無さ兼意味の無さが良い。蛹…

小島なお『展開図』柊書房

浜松駅のバスターミナルを見下ろしながら『展開図』を読む。〈ブレザーの紺に吸われてゆく雪がきみの一部のようだった頃/小島なお〉ブレザーに吸われるのではなくブレザーの紺に吸われるという甘愁。〈頭すこし右に傾く癖いつも眠気は袋状に来るもの/小島…

橋本直『符籙』左右社

静岡市葵区鷹匠のひばりブックスで買った『符籙』を読む。〈一畳のポスターに画鋲冬はじまる/橋本直〉ポスターの重みを支える画鋲の冷たさを思う。〈聖樹いつも星に吸はれてゐる形/橋本直〉ものの捉え方と周囲との関わりの作り方が巧みだと思う。星はどち…

『関大短歌第四号』

台風が逸れた日、『関大短歌第四号』を読む。〈パセリふるだけで綺麗に見えるでしょう愛してもらうことに決めたの/渡つぐみ〉安易な綺麗さとその安易さで手にする愛、サイゼリヤのような生き方。〈こんばんもシャワーヘッドから溢れる数多の天使に身を濡ら…

『岡大短歌 8号』

竜ヶ岩洞から帰った夕刻、『岡大短歌8号』を読む。〈ポタージュの湯気を見つめて《忘れっぽい天使》のように微笑んでいる/深谷あおい〉《忘れっぽい天使》はパウル・クレーの絵だろう。絵を知らなくても「忘れっぽい」はそれだけで愛らしい。〈かなしみを…

『九大短歌 第十一号』

三ヶ日で朝の浜名湖を見ながら『九大短歌第十一号』を読む。〈神聖な涼める我が家に入るには消毒液で手水するべし/長尾義明〉「神聖な」の諧謔が効いている。〈今日ついに一位になった星占いラッキーパーソン『元カレ・元カノ』/山下拓真〉最後の七音にど…

「O」「斉唱」『岡井隆全歌集』思潮社

朝日新聞に第49回全国短歌大会の記事が出ていた日、「O」と「斉唱」部分を読む。〈街上に白墨の矢がのこりたりいかなる意志を伝へむとせし/岡井隆〉白墨は、黒板というより木材やコンクリートに書かれた工事用の指示だろう。本来はその指示の受け手ではない…

小島ゆかり『憂春』角川書店

楽しい日、『憂春』を読む。〈遠山はいちじく色に日暮れつつそこに谺す川魚のこゑ/小島ゆかり〉川魚の声が谺するのが聴こえるほど色濃い山行の思い出がある。〈下り行くわれの後ろにしばしばも鉄扉は閉ぢぬ夕闇の山/小島ゆかり〉夜という鉄扉に閉ざされた…

檜葉記(三)

現代俳句協会関西青年部による「翌檜篇」(21)『現代俳句』令和二年九月号を読む。〈両面刷りの春あふれだすアイドル誌/縞田径〉多色刷りでもなく両面刷りの字余りと「春あふれだす」に表も裏もない喜びが籠められている。〈恐竜になり木二本食う初夢/縞…

「黃旗」『山口誓子句集』角川書店

週刊金曜日の金曜俳句に一句採られた日、「黃旗」部分を読む。〈ほのかなる少女のひげの汗ばめる/山口誓子〉観察力の賜物と言うべきか、あるはずのないものがあるに言及する方式と呼ぶべきか。〈夏草に汽罐車の車輪來て止る/山口誓子〉詞書は「大阪驛構内…

阿波野巧也『ビギナーズラック』左右社

未来の見えた日、『ビギナーズラック』を読む。〈イヤフォンのコードをほどく夕ぐれの雑誌売り場に取り残される/阿波野巧也〉町のスピード感から、町に求められるスマートさから、ひとり取り残される。加速しない自分と加速する町と。〈雨の降りはじめが木…

小島ゆかり『ヘブライ暦』短歌新聞社

見失った日、『ヘブライ暦』を読む。〈水にほふ冬のはじめは街角にペンギンが立つてゐるかとおもふ/小島ゆかり〉黒と白のまだらが見えたのだろう、ペンギンと見間違えるくらいの。たぶん〈薬局を出でて冬陽のなかをゆく白髪の浦島太郎を見たり/小島ゆかり…

小島なお『乱反射』角川書店

浜松古本ショッピングについて考える夜、『乱反射』を読む。〈なんとなく早足で過ぐ日差し濃く溜れる男子更衣室の前/小島なお〉学校建築として更衣室は廊下の東西南北のどちらにあるのか考えてしまう。まぶしいほどに異性へのとまどい。一方で持統天皇的な…

宇佐美魚目『天地存問』角川書店

すこし大きな賞をいただけると知らされた日、『天地存問』を読む。〈水こえる波の明るさ寒の蕗/宇佐美魚目〉せせらぎと蕗の景か、波が水をこえるという繊細さと明るさを見抜く鋭さ、波のように明るい寒の蕗。〈墨の香や夜空の中の雪解富士/宇佐美魚目〉富…

玉葉和歌集の雑歌

雑歌部分を読む。〈咲かぬ間の花待ちすさぶ梅が枝にかねて木伝ふ鶯の声/平時邦〉本番に備えて練習する鶯という「かねて木伝ふ」の面白さ。〈嬉しさも匂ひも袖に余りけり我がため折れる梅の初花/信生法師〉「袖に余りけり」という嬉しさの感情。現代なら「…

「冬の犬」「冬の犬以後」

投句した鉄塊の第十回VT句会が開かれた日、『石部明の川柳と挑発』新葉館出版の続きを読む。〈どの継目からも水洩れする身体/石部明〉継目のある身体という新たな視点がある。〈毛を抜いてしずかに月のふりをする/石部明〉月は無毛という断定がある。〈マ…

堺利彦『石部明の川柳と挑発』新葉館出版

後世に自分と同レベルの読み手が現れるだろうと世界への信頼を持てる人は強い。「馬の胴体」「賑やかな箱」「遊魔系」部分まで読む。〈鳥籠に鳥なく母は午睡せり/石部明〉鳥籠の空白を午睡の母に重ねるとき、空白は妖しい部分に至る。〈諏訪湖とは昨日の夕…

梅雨明け微分方程式

『円錐』第八十六号が届く。第四回円錐新鋭作品賞受賞者最新作を読む。「天国があると思って話していた」より〈なつのまち鏡のなかになつのまち/来栖啓斗〉上五が漢字で下五が仮名に開いてなんて無様ではなく、両五とも仮名、素晴らしい。「みんな」より〈…

檜葉記(二)

現代俳句協会青年部による「翌檜篇」(20)『現代俳句』令和二年八月号を読む。「でも」から〈機影また雲間に消ゆる夏野かな/内野義悠〉「機影また」から夏野を覆う空の高さと大きさとを想像させる。その空や雲を含めて巨大な「夏野」であるかのような連…

千種創一『千夜曳獏』青磁社

また景色を見たくて『千夜曳獏』を読む。〈でもそれが始まりだった。檸檬水、コップは水の鱗をまとい/千種創一〉「水の鱗」は想像への衣として。〈あらすじに全てが書いてあるような雨の林を小走りでゆく/千種創一〉一が千であり千が一となるような、連続…

馬場めぐみ「たわむれ」『文藝誌オートカクテル』白昼社

浜松市の夜の街から三十人の感染者が出た日、『文藝誌オートカクテル2020』収録の連作「たわむれ」を読む。与えられた生とは理不尽の別の名なのかを考えながら。〈ひとの頬ほどに眩しく明日には腐っていたかもしれない桃だ/馬場めぐみ〉「明日には腐ってい…

松村由利子『耳ふたひら』書肆侃侃房

もし世が世なら東京オリンピックの開会式がある日、『耳ふたひら』を読む。〈都市の力見せつけているキオスクの朝刊各紙の厚き林立/松村由利子〉田舎のコンビニには都市の駅のキオスクほど朝刊を揃えていない、キオスクの朝刊は都市の兵站力を見せつけてい…

池田澄子『此処』朔出版

毎朝毎夕兜虫の雄か雌かと鉢合わせる日々に池田澄子『此処』を読む。〈花冷えのこころが体を嫌がるの/池田澄子〉では気温の低下による鬱気な心を主体とさせ、〈花ふぶき体がこころを捨てたがる/池田澄子〉では風が体を主体とさせる。〈満潮の河の厚みと百…

北大路翼『見えない傷』春陽堂書店

湯豆腐とヨーグルト、遺句集として読む。〈一月の茶碗の中の山河かな/北大路翼〉一月の茶碗の中には一月の川や一月の谷が収められている。趣味人の模型のような造形、さまざまな角度から見る。〈湯煙は常に流れて寒桜/北大路翼〉冬風の吹く温泉街のさりげ…

「凍港」『山口誓子句集』角川書店

続く梅雨に「凍港」部分を読む。〈鏡中に西日射し入る夕立あと/山口誓子〉西日と鏡に照り返された西日とで二倍明るさを強調された夕立あと。〈鱚釣りや靑垣なせる陸の山/山口誓子〉陸くが、鱚釣りなのに周囲を取り巻く山々へ着目させる景作り。〈競漕の空…