以太以外

蒼褪めた巨漢は笑う水澄んで 以太

阿波野巧也『ビギナーズラック』左右社

未来の見えた日、『ビギナーズラック』を読む。〈イヤフォンのコードをほどく夕ぐれの雑誌売り場に取り残される/阿波野巧也〉町のスピード感から、町に求められるスマートさから、ひとり取り残される。加速しない自分と加速する町と。〈雨の降りはじめが木々を鳴らすのを見上げる 熱があるかもしれない/阿波野巧也〉身体の外を聴くとは身体の内へ耳をすませること、となる。表と裏はぴたりとつながっている。〈噴水をかたむけながら吹いている風、なんどでもぼくはまちがう/阿波野巧也〉まちがいは能動態ではなく中動態として繰り返してしまう。中動態の風が、公園を吹く。〈夕暮れはぼくの中までおとずれて郵便局を閉ざしていった/阿波野巧也〉郵便局とは他の世界へ繋がる開かれた臓器だろう、それは〈こころゆくまで郵便局の入り口にさかさに置かれてるカップ酒/阿波野巧也〉からも分かる。〈すこしも役に立たなさそうなものになりたい ペットボトルをひねるつぶれる/阿波野巧也〉無用者になるという決意、しかしそれは誰かのためになりたいという意思、〈たばことか神社の話をしてあるく ふつうでいたいなこのままずっと/阿波野巧也〉も。〈500円玉が財布に2枚あるちょっとうきうきする大通り/阿波野巧也〉小学生のころからずっと五百玉は嬉しい。自動販売機で使いにくいのに。


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