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以太以外

病名は人間性や夕野分 以太

『同志社短歌六号』

〈本棚をまるごと捨てなよバイブルは私と君で十分だもん/池田明日香〉図書館派と聖書派の対立が背景にある。〈父親と食事に来たからスマホ置く 別に会話をしたりはしないが/太田〉人間として太田氏を好きだと思う。〈これは墓標 ジャムの瓶に突っ込んだスプーンの柄は鈍く光って/尾崎七遊〉ジャムは果実の死である。〈空のあお草のみどりに白銀のサッポロクラシックはよく映える/亀甲翔太〉路上飲みにビンビンに映える。〈愛すべき抜け殻ばかりのこの部屋で新陳代謝は上手くいかない/彩藤不見樹〉感情の新陳代謝かもしれない、水を飲めばいい。〈靴擦れとサンダル焼けと虫刺されだらけの足で真夏はこれから/さやこ〉すでに戦死級の傷を負ってもなお戦う。〈制服が半袖になり、右ひじの上にほくろがあるのか君は。/鶴〉更衣による発見。〈「玄関のビニール傘を見るたびに返さなきゃとは思っているよ」/花菱三一〉犯人は君だったのか。〈人はみなアメリカザリガニを宿してる僕のはたまたま脳髄にいる/春川輪〉ぶっ飛んでる。〈十年の長さと幅の空間をそうぞうできる紙見つけたよ/莉蘭〉そんな紙、ジャンボエンチョーじゃなきゃ買えないよ。〈しゅわしゅわとほとんど溶けるほうれんそうスーパー銭湯いっしょにいきたい/あかみ〉「ほとんど溶けるほうれんそう」が頭から離れない、怖い。〈最高純度の抱擁は骨肉に無花果色の舌を埋め/虎瀬千虎〉謎の言語センス。