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以太以外

病名は人間性や夕野分 以太

永田和宏『荒神』砂子屋書房

第二十回海音寺潮五郎記念「銀杏文芸賞」の入賞者が発表された日、「荒神」を読む。〈もとめて人を抱きたるのちの夕闇にからすうりは白き花をなげうつ/永田和宏〉「もとめて」の意味深さ、烏瓜の花の妖美さ。〈浜松を過ぎしあたりでバッテリー切れたればさてあとは眠らな/永田和宏〉新幹線で東京と関西を往復したのだろう。道半ばだ。〈広辞苑第二版には人妻にあらざりし日の君が押し花/永田和宏〉辞書には家族の古い記録が残っていたりする。「人妻にあらざりし日」が鮮やかな横顔を投影する。〈広場中央の大時計に夜が来るだれかが梯子を立て掛けしまま/永田和宏〉梯子が新劇の道具っぽくていい。童話のような夜。〈人類の滅びしのちある朝のごとく路上をカラスらは歩く/永田和宏〉あえて字余り。数千年後の未来をも思う。〈あやまって吸い込んでしまったのは妻だったろうかとホースをしまう/永田和宏〉よくある。〈湯あがりの女は立てり月光の水より滝を立たするごとく/永田和宏〉月光に蒼白く照る皮膚とそれを撥ねる湯が見えた。〈糸をもて世界の裏とつながるか池端に寒き男の背中/永田和宏〉釣りに異界を見る。〈ここよりは単線となる夜の駅水盤に黄菖蒲の影うすく射す/永田和宏〉単線とは世界の辺境、そこで黄菖蒲を育てている人がいるという優しさ。