以太以外

辷り台に脚を忘れた虫の闇/以太 ※リンク・引用自由

「O」「斉唱」『岡井隆全歌集』思潮社

朝日新聞第49回全国短歌大会の記事が出ていた日、「O」と「斉唱」部分を読む。〈街上に白墨の矢がのこりたりいかなる意志を伝へむとせし/岡井隆〉白墨は、黒板というより木材やコンクリートに書かれた工事用の指示だろう。本来はその指示の受け手ではない人が指示の意味を解釈しようとする面白さ。〈燭の火のほそきを立てて守るごと露語講習の通知手にもつ/岡井隆〉「露語講習」はロシア以前に露のような儚さのある字面だ。〈抱くとき髪に湿りののこりいて美しかりし野の雨を言う/岡井隆〉言うとき、靄や霞のようなものがかかっているといい。〈暁闇から蘇りくる街々の音を誌して眠らんとする/岡井隆〉新聞配達や牛乳配達の音、夜を生きる人の黝い記憶として。〈降る雪にゆく貨物車の警笛の狂えるごとくしげきこの夜半/岡井隆〉狂奔と言うべきか。〈廃井に冬木菟を覗かんとわれらの指は組み合わされつ/岡井隆〉「廃井」「冬木菟」字面が美しい。〈傲然と砂丘に拠れる鴉らに浜を還して立ち去るわれら/岡井隆〉そこには立ち入ることのできぬ鴉の拠点があった。〈常磐線わかるる深きカーヴ見ゆわれに労働の夜が来んとして/岡井隆常磐線が労働詩になるのは〈ぬばたまの常磐線の酔客の支へて来たる日本、はどこだ/田村元〉もそう。〈母の内に暗くひろがる原野ありてそこ行くときのわれ鉛の兵/岡井隆〉「鉛の兵」の冷たさ色の無さという甘愁にも似た蛮勇。

容疑理由 牧笛不法所持及び家畜騒擾示唆・堕胎致死 岡井隆