以太以外

蒼褪めた巨漢は笑う水澄んで 以太

「凍港」『山口誓子句集』角川書店

続く梅雨に「凍港」部分を読む。〈鏡中に西日射し入る夕立あと/山口誓子〉西日と鏡に照り返された西日とで二倍明るさを強調された夕立あと。〈鱚釣りや靑垣なせる陸の山/山口誓子〉陸くが、鱚釣りなのに周囲を取り巻く山々へ着目させる景作り。〈競漕の空しき艇庫汐さしぬ/山口誓子〉「空しき」は言い過ぎだが、競技そのものではなくその準備場所への眼差しは意外で好ましい。〈大學の空の碧きに凧ひとつ/山口誓子〉企図の大きさと希望、とは言い過ぎか。カラリとした句だ。〈扇風器大き翼をやすめたり/山口誓子〉は競漕句と同じく中心から視線を逸した。今度は場所の辺境ではなく時間の辺境である。〈捕鯨船嗄れたる汽笛をならしけり/山口誓子〉汽笛ふえ、捕鯨史の長さ深さを感じさせる「嗄れたる」。〈海は春入渠の船のうすき煙/山口誓子〉霞がかっているために煙はうすく見えるという春の港、「うすき煙」としたことで入渠のゆっくりさが強調される。薄さや淡さは遅さ。なぜか、なんとなく。〈月食の夜を氷上に遊びけり/山口誓子〉月蝕のために怪しげな雰囲気を醸すようになったスケート遊び。