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以太以外

病名は人間性や夕野分 以太

宇佐美魚目『天地存問』角川書店

すこし大きな賞をいただけると知らされた日、『天地存問』を読む。〈水こえる波の明るさ寒の蕗/宇佐美魚目〉せせらぎと蕗の景か、波が水をこえるという繊細さと明るさを見抜く鋭さ、波のように明るい寒の蕗。〈墨の香や夜空の中の雪解富士/宇佐美魚目〉富士の奥底を流れる雪解水、夜と地中という二重の暗黒と墨の暗さの対比、闇に隠された生命感。〈黒文字の木に水ふえて春の谷/宇佐美魚目〉木に葉に水があふれる、春の喜び。〈てのひらに四温の雨や能のあと/宇佐美魚目〉死の世界を観たあとてのひらに感じる生命の予感、〈顔につく大きな雪や能のあと/宇佐美魚目〉も。〈蚊柱を吹いて曲げたり木曾の風/宇佐美魚目〉蚊柱って曲がるんだ。〈釣竿の性の失せゆく月の家/宇佐美魚目〉月光で釣竿が変性していくような。〈戸口より山路はじまる屠蘇の酔/宇佐美魚目〉「戸口より山路はじまる」の高揚感が新年。〈凍蝶や襖はづせし太柱/宇佐美魚目〉襖という肉の剥がれた骨格としての太柱に凍蝶という荒涼を思う。

木曾谷や繩落ちて繩氷りをり 宇佐美魚目