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以太以外

病名は人間性や夕野分 以太

小島なお『乱反射』角川書店

浜松古本ショッピングについて考える夜、『乱反射』を読む。〈なんとなく早足で過ぐ日差し濃く溜れる男子更衣室の前/小島なお〉学校建築として更衣室は廊下の東西南北のどちらにあるのか考えてしまう。まぶしいほどに異性へのとまどい。一方で持統天皇的な〈屋上に干された男子の体育着まぶしくなれり秋晴れの今日/小島なお〉には子分の男子たちを従えた姐御感がある。〈かたつむりとつぶやくときのやさしさは腋下にかすか汗滲むごとし/小島なお〉「無理」と言うやさしさ、でも特にM音のやさしさがある。〈昨日の夜何を食べたか思い出すためにゆっくりまばたきをする/小島なお〉瞬きは忘れるための行為でもある。〈静かなる低きみどりの屋根ありぬ朝焼けの街の田島青果店小島なお〉まだあるのかな、田島青果店。調べたら江戸川区鹿骨長野市篠ノ井にあった。鹿骨は集合住宅の一階で屋根はなく、篠ノ井は黄色と緑の二色の屋根、どちらももう違う。〈なくさないように鍵につけた鈴いつまでもいつまでも鳴りやまぬ冬/小島なお〉冬の散歩の、先行きの見えない不安。何かなくしていやしないかという子供のころからの不安が鈴の音のようにつきまとうかのように。