以太以外

蒼褪めた巨漢は笑う水澄んで 以太

毎日歌壇2021年11月16日

米川千嘉子選〈ファブリーズせつせと噴霧し禊する平成生まれのあつけらかーん/花嶋八重子〉あつけらかーんが脳に残る。〈つむじ風になればよかった囚われて埋められるならビルのすき間に/横田博行〉なりたいもの、埋められる場所がおもしろい。人間でなければよかった。〈手つかずの栞の紐に出会ふとき図書館の本愛しみて撫づ/中林照明〉自分が手にとらなかったら誰にも読まれなかったかもしれない一冊だと思うと思いが強くなる。加藤治郎選〈なんらかの部品が床に落ちている 僕のではないことを祈るよ/人子一人〉工場の景か。製品の部品を、自分自身の肉体の部品とも読めるように書く愉快さ。〈使いかけのノートの端に描いた絵のような僕を夜に見つけて/世田夏雪〉「僕」の形容が想像力をかきたてる。篠弘選〈じんわりとからだのどこかに残りおり地下劇場での戦争映画/黒木淳子〉過去の思い出だろう。何年も衝撃が残るような戦争映画を、地下劇場で観たい。伊藤一彦選〈見事なる弓張月の窪みなる誰の作なりや売り家の砥石/秋野三歩〉落ちている砥石だろう。売り家の元持ち主が永年鍛えたのかも。〈切ない夜にガソリンスタンドの優しく照らす無人の明かり/おでかけさき〉コンビニとガソリンスタンドは夜の彷徨でふと立ち寄りたくなる。