中日歌壇
島田修三選第一席〈モノクロの家に突然色が付く子の恋人の花のスカート/二ツ木美智子〉結婚とかではなく、若い恋人なのだと思う。〈深みゆく秋のあしたの合はせ鏡私の知らない私を映す/冬森すはん〉「これは誰?」とまでは行かなくても変わりゆく季節に変わりゆく私を映す。〈盥ほどの大きな大きな後の月バナナ色して山の端を発つ/鈴木仁〉威勢のいい月だ。〈二人分の茶碗を洗っているきみの後頭部から踵まで見る/伊藤すみこ〉ちゃんと「きみ」なのかをたしかめるように。小島ゆかり選第二席〈口角を摑むかたちで落ちている白きマスクに溜まる秋の陽/加藤重男〉評にもあるけどマスクのかたちの捉え方がおもしろい。〈富士見ゆるアウトレットの巨大尽くることなき欲望のごと/石川休塵〉御殿場かな。
朝日歌壇
高野公彦選〈生きるため必須の知恵のあらかたを学んだ漫画ゴルゴ、カムイ去る/人見江一〉必要なことは漫画で学んだ世代だろう。〈大宇宙の塵にすぎないこの私弓引けば的が響みてくれる/松村千津子〉中てるのではなく中たる。永田和宏選〈頭もたげ国後択捉くわえたる龍の姿ぞ日本列島/緑川智〉昇れ。馬場あき子選〈千年後縄文時代の人口に減るとふ国に放射能残る/夏目たかし〉思考のスケールの大きさ。〈海なぎて風車回らぬ大浜に鷗群れ飛ぶ残照のとき/堀田孝〉風力発電機だろう。佐佐木幸綱選〈チェンソーの木くず吹雪の如く舞ふ揺るがぬ空師巨木を制す/竹内美和〉空師の名辞とともに圧倒的な迫力。