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以太以外

病名は人間性や夕野分 以太

朝日歌壇朝日俳壇2022年9月11日

高野公彦選〈大谷の打ちしボールを追うカメラオークランドの月も映せり/三船武子〉パン、パンと映像が決まる。〈見張れるを見せつけてをり百均の自動精算機にカメラ付く/前川泰信〉この監視カメラ、電線はつながっていないかも。百均だし。永田和宏選〈昔から思っていたがベーブ・ルース ベースボールと似すぎてないか/伊東澄子〉ずっこけた。馬場あき子選〈顔知らぬ父もつ夫の存在の重さを今年も知る終戦日/桜井雅子〉舅さまは戦争中に亡くなられたのだろうか。ご主人が今生きているのは奇跡のようなものだろう。佐佐木幸綱選〈軍国少年時代と似た風を近頃老いた肌に感じる/由良英俊〉戦前は右から、今は左から似た風が吹く。〈ちょっとした坂にも名前荷車の時代の人に重かりし坂/後藤進〉坂の名に地名に人々の生活の記憶が宿る。〈雲よりも淡き半月昇りゆくまだ空碧き立秋の宵/小池正〉月が雲よりも淡いというのが繊細。〈栗畑見下ろしクレーン林立すまた造るらし物流センター/山瀬佳代子〉栗のように郊外にたくさんできる物流センター。そして☆〈戦争は祈りだけでは止まらない 陽に灼かれつつデモに加わる/十亀弘史〉は四選者の共選。

高山れおな選〈貝殻に貝より長き月日あり/志摩光風〉高山れおな評で〈渚で鳴る巻貝有機質は死して/安井浩司〉が引かれているけれど、これは生前の貝だろう。〈国葬の列には非ず蟻の列/麻生勝行〉ふたつの列のさきには何が待っているのか。〈露草の透く瑠璃色や草葉の間/斉木直哉〉たたずまいが佳い。〈甘藍の育てし巨大なめくぢり/荻原葉月〉想像以上の巨大さだったのだろう。小林貴子選〈人生を楽しむタイプ夏休み/藤森荘吉〉人生の楽しみを見出すのが巧み。〈琴は立てギターも立てて月を待つ/表いさお〉思わず月琴ということばが思い浮かんだ。〈深すぎる花野を胸で掻き分ける/伊藤玉枝〉「胸で」がいい。長谷川櫂〈立ち止まるための八月十五日/榧野実〉玉音放送で立ち止まることでもあるし、今の立ち止まりでもある。〈列島の行く末怖し土用波/島田章平〉とまらない左傾化か。大串章選〈緑陰は古本市の指定席/名村悦武〉緑のある古本市という風景に憧れる。〈落蟬の鳴き尽くしたる軽さかな/信里由美子〉音は重さとなって。