以太以外

蒼褪めた巨漢は笑う水澄んで 以太

中日歌壇朝日歌壇2021年9月19日

中日歌壇

島田修三選第三席〈亀の子の一二三四五、十二十、五十六十海へ海へと/中山いつき〉短歌は歌なのだと改めて思う。〈スマホ鳴り「十階ですよ見えますか」手を振るだけの面会終わる/安形順一〉発話は患者の方だろうか。〈助詞の「に」はforにto足しat足し3で割ってもまだまだ違ふ/渡部芳郎〉inもonもintoもaboveもunderもaroundもalongも。小島ゆかり選第一席〈夏逝くはいつも寂しく日輪のやうな金魚を買ひ求めたり/浅井克宏〉その尾鰭の燃えるような形状を思う。〈停止せる大観覧車輪の中に動きは緩し今朝の雨雲/馬場泰年〉これって刈谷ハイウェイオアシスの観覧車だろうか。〈早朝にまだおよげない幼児の水着が泳ぐ夏風の中/山田真人〉きっと幼児はごろごろしている。

朝日歌壇

馬場あき子選〈大統領は逃れ市民は残されてああカブールは陥落したり/中原千絵子〉二十年の長さに比して地図の色が塗り替わるのはあっという間だった。〈しみじみと荷風の日本語懐かしく『日和下駄』読む蝉鳴く夕べ/小池美樹彦〉佐佐木幸綱選〈カカ・ムラドへの挽歌悲しく読み返すタリバン本日カブール制圧/栗原弥生〉うむ。〈透析人 夫に連休ありません窓辺に近く蟬時雨ふる/こたちみちこ〉「透析人」ってすごい語彙。高野公彦選〈あのひともあのひともゐた旅の宿ホテル「歌壇」を発ちしひとひと/辻岡瑛雄〉さようなら、だけを残して。永田和宏選〈カブールに残るかそれとも飛行機の機体にしがみつくかの選択/水野一也〉しがみついた彼が最期に見た景色は青空であったか、そうであってくれれば。〈差し出されし赤子抱き取るトラックの米兵の背のカブールの蒼穹/中原千絵子〉蒼穹にはそらとルビ、そこに自由があるはず。〈小台橋から見えるホームの四階の母が居るのはたぶんあの窓/村上ちえ子〉安形さんの十階と村上さんの四階と。病院へ面会に入れない日々。