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以太以外

病名は人間性や夕野分 以太

毎日歌壇毎日俳壇2022年9月19日

〈虫鳴いて夜の空き地となりにけり/以太〉が西村和子選で入選していた。井上康明選〈秋の夜の解の公式言うてみる/大戸政子〉秋の夜のさびしさから逃れるための解の公式だろう。〈頂に皇子の墓標や雁渡る/古賀勇理央〉非業の死を遂げた大津皇子の墓標。雁よ愛しい人に思いを伝えておくれ。片山由美子選〈降りしきる中を送られ茄子の馬/今成公江〉小さな傘を添えたくなる。小川軽舟選〈夕焼と改札口と棕櫚の木と/金山陽〉並置の句、帰り道だろう。ぼんやりと歩く。西村和子選〈妻の腕太くなりけり麦茶飲む/網野佐太郎〉腕の太さは生活の苦労の多さ。〈手花火や少女は光るものが好き/林梢〉光り物は夜景も花火も宝石も、人の営みが少女を守っているという象徴だから。

米川千嘉子選〈色白で華奢な少女が大きなるウーバーリュックと木陰で休む/日下部ほのの〉都会ではアイドルのような少女もウーバーイーツをする。ウーバーリュックの添え物のように小さな少女、これもまたウーバーイーツ短歌。〈郵便は土日に届かず「必着」に情け無用のイメージが増す/柴田和彦〉消印有効ならなんとかなりそうだけど、必着は投函を相当早めないとならない。加藤治郎選〈ともだちを舐めたら甘いきがしてた とおくに落ちる雷の音/芝澤樹〉ぞくっとする歌。ともだちは恋人未満な気がする。落雷は気づかないうちに感情の何かが急激に変わろうとする兆し。〈親戚の家は近くに海があり僕の家よりしょっぱい網戸/平安まだら〉海岸部の生活感がある。というか、舐めたの?〈五年前のカーナビでゆく ふるさとにサークルKを息づかせつつ/木村佳慧〉更新されないカーナビ、どんどん変わる町並み。篠弘選〈戻りたい戻りたいけどためらわる私の小さなプライドのため/佐々木節子〉「武士の鑑」の畠山次郎重忠を思った。伊藤一彦選〈きつく編まれた三つ編みの目を撫でる それなりに愛されていたのだ/宇井香夏〉三つ編みの手触りに幼い頃の母親の愛情を思う。