中日歌壇
島田修三選第一席〈ひとところ川面が光る秋の午後さびしき者はここへ来よとぞ/三井久美〉川面の光を声と読む。第二席〈みずからを鼓舞して生きんSLよ汗敢えて乗務の若き日ありき/村松敏夫〉浜松市より、天竜浜名湖鉄道かなと思う。〈木に登る朝ドラヒロインあまたいて各々違う思い出の顔/棚橋義弘〉確かに朝ドラヒロインは木に登る活発な女の子像を押し付けられているイメージ。小島ゆかり選第二席〈二股に分かるる欅と単線のただ一筋を行く飯田線/梶村京子〉評の「縦軸と横軸」は水平軸と垂直軸ということだろう。〈ライオンもペンギンもいた岐阜公園女神の噴水ここで会ったね/番匠洋子〉と〈此処に昔魚市場あり大鯨割かれしことも憶えてをりぬ/真岸米子〉、懐旧、二首とも場所の記憶。具体名があり生き生きとしている。
朝日歌壇
佐佐木幸綱選〈みどり児の腹式呼吸に上下する白熊の柄 星を見ている/北村あゆち〉白熊の絵柄のベビー服だろう。絵本のような話といえば済むものでもない。〈「本人」と大きく書かれたマスクあり選挙用品商う店に/篠原俊則〉虚構でもいいと思わせるおもしろさ。高野公彦選〈投げるのが怖かったという松坂のヒゲには白きヒゲも交じれり/篠原俊則〉松坂世代も老いた。永田和宏選〈父が寝てからの団欒ありしこと湧き出づる寒椿の生家/森谷弘志〉父の悲哀、酔って寝たのだろう。〈生真面目な君の性格災いし僕に付き合うことになったね/近藤史紀〉「災いし」が味。馬場あき子選〈この秋の私の心の湖は少し青みを増した気がする/松田わこ〉生物が少なくなり濁りが消えたのだろう、死への青。